高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
北川宏人
伊藤雅史VS佐々木豊
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山口晃vs佐々木豊
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'Round About


第59回 久野和洋 VS 土屋禮一

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  久野:ヨーロッパで困った事というのは、次第に所持金がなくなるじゃないですか。ある時期、毎日のように知人へ借金の手紙を書いていたんです。それで土屋さんに「困っている」みたいなことを書いたのかどうか、内容はよく憶えてませんが。土屋さんからある時、5万円送られてきたの。えらく感激してね、こういう人のことを真の友達っていうんだろうなって(笑)。いまだ忘れませんよ。お金という単なる金銭的なことじゃなくて(笑)、困っている時に助けてくれる人だと。それにしても美術館、教会などたくさん観ましたね。現代の美術もずっと観ていました。画廊も超一流の画廊を。現代美術と具象系の美術、先端のものも観ていました。で、先端と、古典古代という両極を観ていて、そこで気付いたのは、古いものの造形に、より新鮮な新しさを感じたのです。古代のエジプト、メソポタミア、ギリシャ、エトルリアの美術、中世から16世紀までのイタリア美術、15・16世紀のフランドル絵画及び北方絵画など、いずれもとうてい現代では及ばないであろう豊かで厳しい造形力。いま科学文明が発達してますけど、芸術の上というのは進歩がないと、確信をもったわけね。そういう意味で芸術と人間のあり方について考えさせられました。  
   
   
 
線に敏感に
土屋:久野さんは、武蔵美でも珍しいと思うけど、油画と彫刻の両方の学科を出ているわけですけど、今回、2つのブロンズの彫刻を観て驚いたね。
久野:女性像の彫刻は4年生の時の作品で、僕は彫刻科に3年から編入したから、二つか三つ目の彫刻なんですよ。彫刻経験は僅かでしたが、何故かスーとできちゃった。もうひとつの男のモデルは、卒業数年後の作品で、現在の甲田(洋二)学長が偉くなる前の……
土屋:あれ学長のなの? そう言われるとそうだ。
久野:清水多嘉示先生から「久野君、デッサンができれば絵画も彫刻も何でもできるんだよ」と言われたことがあるけど、まったくそうだと思いましたね。平面と立体は、触覚的な3次元ものと平面は違いますけど、ものを見ると言うことでは同じですから。
土屋:自然に彫刻もやりたいということが出てきたの?
久野:3次元の立体というのは、直接さわってみないと分からない。彫刻を経験することで平面がもっとよく分かるんじゃないかなと思って。
日本画も好きなんですよ。特に東洋の絵とかね。僕の「水溜まる」の作品ね、中国の宋代絵画のね……
 
 
土屋:あ、宋元だ。
久野:ああいうもの、自然の神秘を見るような世界ね、どこか僕の心の片隅にあったかもしれない。
土屋:ヨーロッパの下敷きと違いますよね。
武蔵美は、かつて帝国美術学校といったんだけど、創立者の一人にその時金原省吾という美学者がいて、我々にとって大切な方なんですが、その方の美学、いろんな論を一時期読んだ時、「日本画の線」という解釈があるんです。
広い草原を旅人が西からと東からと、二人の旅人が歩いてきた。
そうすると、ある地点で一緒になると、道があまりにも細かったから、
お互いが自分の道を譲り合ったと。「おたくどうぞ」「いやいやそちらどうぞ」と。すると、二人の旅人の間にわずかな空間が生まれた。
それが日本画の線である──。
 
   
   
  とってもきれいな解釈だと思って。われわれは、ものをただ頭を下げて模写しているだけでもだめだし、自分の勝手な解釈だけがで過ぎてもだめで。“何ともいえない関係”というか。絵描きの形と色なり、すべてに言えることでね。
久野:いい話ですね。僕はリアリズムですけど、ヨーロッパ人のリアリストとはちょっと違うと思う。線という言葉で思い出したけど、東洋とか日本画というのは、出発点が線的な世界ですよね。だから、素描というか、デッサンの延長上で、作品ができあがっている。中国の絵もそうですよね。まさに墨単一の素材で、非常に深遠な世界を描くわけでしょ。ところがヨーロッパの伝統的な油絵というのは、量的というか、マッスで考えるところがあります。でも日本人・東洋人というのは、内容の質が平面的でもあるし、線的でもある。自然に対しても我々日本人は非常に敏感だと思う。だから同じリアリズムをやっていても、向こうのは僕がやっているようなのとは違うし、血液の違いかなあ。そういう意味で面白いと思っています。
 
  土屋:金原先生の話は非常に印象深く残っていましてね、でも人間関係も同じでしょ。
譲り合い……。
久野:そうだね。まさにその通りだね。土屋さんて不思議な人だねえ、僕はずいぶん人見知りなんだけど、初対面の第一印象でこんなにすっと親しくなった人はいなかったからなあ。

土屋:そう?
 
2008年12月 武蔵野美術大学教授退任記念
「地からのメッセージ・静なる世界 久野和洋 1963ー2008」展
ギャラリートーク取材
 
  

 

久野和洋(くの・かずひろ)
1938年愛知県生まれ。武蔵野美術学校本科美術科卒業。パリ国立高等美術学校留学。ルーヴル美術館でジョットの作品を模写。82年「第34回立軌展」招待出品、同人推挙(以後毎回出品)。67-86年に「安井賞展」に6回出品。91年「両洋の眼展」で推奨受賞(以後毎回出品)、「現代日本絵画展」(中国・故宮博物院)、「久野和洋1974-1991展」(名古屋画廊)、98年「久野和洋展」(日本橋高島屋・大阪、横浜、名古屋を巡回)。99年第10回記念「両洋の眼展」で河北倫明賞受賞。04年「地からのメッセージ 久野和洋展」(日本橋高島屋・大阪、京都、名古屋を巡回)。
現在、立軌会同人、日本美術家連盟洋画部委員、武蔵野美術大学教授。

 
  

 

土屋禮一(つちや・れいいち)
1946年岐阜県生まれ。67年武蔵野美術大学卒業、日展初入選。69年日展特選・白寿賞。85年日展会員賞。89年ユーロパリアジャパン現代日本画展出品。90年MOA岡田茂吉賞優秀賞。98年瑞龍寺壁画制作。99年個展(岐阜県立美術館)。06年日展文部科学大臣賞。07年日本芸術院賞。 
現在、日展理事 金沢美術工芸大学教授。