高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
北川宏人
伊藤雅史VS佐々木豊
岡村桂三郎×河嶋淳司
原崇浩VS佐々木豊
泉谷淑夫
間島秀徳
町田久美VS佐々木豊
園家誠二
諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
秋元雄史
久野和洋VS土屋禮一
池田学
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
山田まほ
中堀慎治

森田りえ子氏
'Round About

第30回 森田りえ子 VS 佐々木 豊

春夏秋冬を彩る花々や、京都の伝統文化が香る舞妓達、ときにエキゾティックな女性像を森田りえ子は卓越した描写力で表現する。森田りえ子は現在の京都画壇にあって、次代の日本画を託されている女流作家だ。今回は佐々木豊の師であった故・三尾公三を通じて知己である二人が、縦横に画論を展開する兄妹?対決です。

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  祝「無所属派ジャンル」に陽がさした(佐)  
   
 
川端龍子賞の効果
佐々木:りえちゃんとは、三尾公三先生のいわば兄妹弟子みたいなもの。ぼくが出来の悪い長男で、しっかり者の長女が川村えっちゃん(悦子)、色っぽい次女がりえちゃん。
森 田:甘ったれのりえちゃんでした(笑)。
佐々木:今は、描いた絵は全部売れてしまうでしょ?
森 田:そんなことないです。大作とかは残りますよ。
佐々木:じゃあほとんど展覧会から戻ってこない?
森 田:まあおかげさまで。ただ、日本画の場合、大作以外は画商さんの買い取りということもありますから。
佐々木:展覧会から絵が戻らなくなりはじめたのはいつごろから?
森 田:いつの間にかですね。川端龍子大賞のころからでしょうか。
佐々木:創画会には何回ぐらい出しました?
森 田:五、六回は出してます。
佐々木:でもその会で偉くなる前に、画商さんとか商業ベースで人気が出てしまうと、なんとなくやっかまれて落とされるとか。
森 田:団体展に所属するといろいろと制約や人間関係の難しさはありますね。
 
   
 
佐々木:かつては団体展の肩書きがないと世の中に出られなかった。それがなくなっちゃった。
森 田:なくなったように感じます。それはうれしい。京都の場合、ダントツで日展でした。東京は日展と院展。今でも院展はすごい人気ですけれども、それ以外に「無所属派」というジャンルができたんです。
佐々木:そういう変化を感じたのはいつ頃? 1980年代ではまだでしょ。
森 田:「団体展に出しておかないと何にも出来ないよ」とずいぶん注意されました。でも、当時の自分は、そういう場に身を置きたくないと思い振り切りました。
佐々木:最近は老舗の画廊が無所属の作家ばかり集めて展覧会を開くようになった。画商サイドから見たら、団体展の作家は師匠の許可がないと展覧会に出せない。そんなやつに付き合っているのはめんどくさい。そういう動きもあるんじゃないの? どうしてそうなったんだろう?
 
森 田:こんなこと言ったらよくないかもしれないけれど……。
佐々木:言ってくださいよ。
森 田:団体展の魅力?
佐々木:団体展の重みが相対的に薄れてきたと。それはいいことだよね。団体展作家も無所属作家も横一線になったと思えば。
森 田:そうですね。世間が団体展の肩書きよりも個性を重視するようになってきたのでは? 魅力的な絵を描いていたら、デパートや画廊で個展をしても、人に来ていただける。そういう時代になりました。だから、やっぱり間違っていなかったと思って(笑)
 
   
 
明るい舞妓
佐々木:今題材別でいうと大きく、花と舞妓などの人物がある。画商にせっつかれる度合いでいうと?
森 田:80パーセント以上花でしょうね。
佐々木:へえー。日本画では、花を描く人は多いけど人物を描く人は極端に少ないね。それはなぜなのかな?例えば油絵だったら、グラデーションで立体感を作るのが楽だけど、日本画は手間がかかるからかな。
森 田:私には人物も花もそんなに差は無いですけど。でも、夢中で花をずっと追いかけていると、はたとそれだけじゃ面白くないと思って、人物に目がいく。すると、こんどは人物ばかりになったりして。
佐々木:舞妓を描きだしたのは、わりと最近だよね
森 田:大きな展覧会をしたのは2002年です。でも、それまでに写生は足繁くしていました。せっかく京都に住んでいるんですから。昔から日本画に限らず画家や小説家に、舞妓のテーマが数多くあります。そういうところから、私もちょっと興味本位に首を突っ込んだら楽しくなったんです。ただ、今の舞妓って、映画の『SAYURI』みたいな悲壮感はまったくなくて、明るいですよ。インターネットで舞妓を募集するくらいですから。でもあの世界は、ものすごくしつけやしきたりが厳しい。やめていく子も沢山います。
 
佐々木:かなり人物デッサンはやったでしょ?
森 田:そうですね。人物は好き、というよりすべての始まりのような、創作意欲をそそらせる基礎のような気がします。いろんなポーズをしてもらうと、ドキドキするぐらいイメージが広がる。
佐々木:舞妓の場合は、着物が見せ所でしょ?
森 田:そう。着物も髪飾りも、本当にディテールに神が宿る……。「この衿(えり)が絵になる」とか「こんなお襦袢着てちらりと季節を表している」とか、そういう実にデリケートなところに楽しみを感じるんです。日本の美意識の再発見です。
佐々木:男はなかなかそんな細やかなことに気がいかないなあ。
 
   
森 田:松園(上村)さんが「美人画をなんで女の人が描くんですか」と言われて、「着せ替え人形をしているような楽しさがあります」とおっしゃったらしいんですけど、それすごく分かります。
佐々木:ただ、森田さんも、龍子賞をとった「白日」や「十六夜」などの菊の花には、妖艶な気配がただよっていたんだけど。最近はそういう花の陰の部分を描かなくなったのはなぜなんだろう。
森 田:私の今の心境は「生命賛歌」とでも表現したらいいのかな……。直球で命の豪快さを描きたいと考えています。もっとも、歳を重ねると、また違う方向に絵が変わっていくのかもしれませんが。