高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
北川宏人
伊藤雅史VS佐々木豊
岡村桂三郎×河嶋淳司
原崇浩VS佐々木豊
泉谷淑夫
間島秀徳
町田久美VS佐々木豊
園家誠二
諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
秋元雄史
久野和洋VS土屋禮一
池田学
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治




'Round About

第65回 マコト・フジムラ

米ホワイトハウスでの文化担当顧問の任期を終了し、日本での個展を久し振りに開催したマコト・フジムラ。生い立ちとアメリカでの学生生活、日本画の選択から加山又造との出会いを聞くと同時に、現在の活動と今後の展望を交えつつ文化に対する主張や、作品が持つ思想、制作に到る発想について尋ねた。

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●会場の一階に展示されている蝶のシリーズ《Butterfly Dream》|〜V|は、有機的で生命力に満ち溢れています。蝶の持つ儚さよりも力強さを感じる新作ですね。
マコト:吹っ切れたものがありました。文化担当顧問に就いたことで、アートの仕事を色々な角度から見ることができました。そこで考えたのは「アートとは何か?」ということです。この問いに対して私は「生きることである」という結論に達しました。アートは生きるために不可欠なことである、それを証明しなければなりません。文化担当顧問の仕事が終わり、一度日本に帰ってきたときに国立新美術館で加山又造展(1月21日〜3月2日)を見ました。その時思ったのは、人の目を気にせず自己を貫き通す個性と言うか頑固さと言うか…、奇麗ごとではないのですね、彼のパワーです。私が知っていた加山先生が、甦りました。加山先生が描く蝶に、生きること、実在すること、その証しを感じます。ここを大切にしたいと思います。
 
   
●大切ですが厳しい思想です。幼少から考えていたことなのですか。
マコト:教育者の母と、音声研究の科学者である父に育てられました。父は東大の教授でしたが辞めてしまい、アメリカの「ベル研究所」に勤めていました。私は父がMITにいた時にアメリカで生まれました。ですので日系アメリカ人です。その後両親と日本に来て、鎌倉の小学校で学びました。13歳の時、再びアメリカに渡りました。

●お父さんの研究もマコトさんの仕事も、「クリエイティヴ」ですね。
マコト:本格的に絵を描き始めた高校時代は自己と創造が分離してしまい、「表現とは何か?」という問題に常に頭を悩ませていました。今思えば、父と同じく私も近代合理主義に対して懐疑的だったのですね。大学では美術と共に動物行動学を学びました。動物行動学は処理学であり生物学ですから、データを重視し過ぎるところがあります。データでは説明できない無駄な美しさ、ニュアンスというもの。ここがアートの役割であることを学びました。
 
●バックネル大学時代は、どのような作品を描いていたのですか。
マコト:デッサンを基調に、アクリルで抽象表現主義的な作品を制作していました。師事していた先生がカラー・フィールド・ペインティングの専門でしたので、主に色彩を勉強しました。アーシル・ゴーキーとジョルジュ・ルオーに衝撃を受けていました。ゴーキーは、東洋を受け入れています。そのような哲学的な面に魅かれて、ボストン美術館で古美術を見たり、岡倉覚三の文章を読んだりしていました。だからこそ、岡倉をもっと参考にしたいのです。

●それから再び日本に来たのですね。何故日本画を選んだのですか。
マコト:画材が自分にぴたりとしたのですね。斎藤典彦さんに学びました。この頃には結婚してまして、妻の影響から聖書を読むようになりました。聖書が持つ創造の世界には、全てに意味があります。実存主義は「無」が消化できない。「無」にも意味があるのです。このようなことを考えて《二子玉川園》(1989年)を描きました。

●そして先程の話にもありました、加山先生に招かれるのですね。
マコト:そうです。描いているもの、「もの」そのもの、エッセンス、材料、執念、好奇心、新しいものに恐れず挑戦すること、自分を持っていれば大丈夫。博士課程では、このような感じでした。
 
   
   
●アメリカでの制作のモチーフは何でしょう?
マコト:《コロンバイン一望》(2002年)は題目が示すとおり、1999年4月20日に起こったコロラド州コロンバイン高校における男子学生による乱射、自殺事件をモチーフとしています。この事件を機にアメリカの文化が崩れ始め、2001年9月11日の同時多発テロとの繋がりを感じました。

●ビデオ作品も制作していますね。
マコト:そうです、ビデオ作品にもこの思いは結びついています。《蛍烏賊》(2007年)ではそれが出せたと思います。この作品は日本画が持つプロセス、即ち時間を作り、時間を重ねることが隠されています。

●そしてパフォーマンスもなさるのですね。地下の展示室でスージー・イバラ氏とのコラボレーションドキュメントのビデオ作品が上映されています。場所のフィーリングを大切にして、イバラ氏は母国のフィリピンの楽器を、マコト氏は日本の雲肌和紙と泥(金・プラチナ)を使う。それがジャズという20世紀アメリカを代表する芸術で括ることは、とても興味深いです。5月15日には、実際のパフォーマンスに立ち会うことができました。マコト氏は自己の作品を手で千切り、箱に詰めて訪れた人たちに「ギフト」として渡すという、感動的な内容でした。
マコト:絵もパフォーマンスも繋がっていますが、私は特に自己のパフォーマンス作品を見て「未完成」の感触を受けます。Y・ボイスも同様です。「未完成」、それが一つの特徴であり、大切なことなのです。見せ事は「完成」です。矛盾があってもいいから自分に自由を与えています。スージーも同様です。見せられないものを大切にしたいのです。それは常に「動いて」います。その時気づいていなくとも、十年後に気づけることがあるのです。
 
   
   
●ホワイトハウスの文化担当顧問時代について聞かせてください。
マコト:主に教育と国際交流を6年間行ないました。これは今後も課題として持ちたい内容です。就任して先ず、アメリカではアートが教育の中に重視されていないことに気がつきました。ジャズという文化も知らない若者がいるということは、アートが行き届いていない証拠です。人間性が失われている。次に予算に驚きました。はじめに予算を切られるのは音楽とアートです。そして理想を持たないと居られない、即ち民主主義の根底を発見しました。よくよく考えると、民主主義に政治家がいるのはおかしなことです。それでもアメリカは原動力であり、可能性を秘めていることに変わりはない。非難するだけでは済まないのです。民主主義の中で、芸術家がリーダーシップをとって理念や理想を掲げるべきです。政治家をストップできるのは、アーティストと農民くらいですよ。
 
   
   
   
●今後の展開はいかがですか
マコト:ニューヨークでJ・ルオーとのコラボレーション展示を行います。ルオーとオーバーラップしたいのです。アクションペインティングの問題、ステンドグラスの美しさ、書道のような命の線、そのようなイメージを頭に描いています。共にパフォーマンスをしているスージーとも続けて行きます。そして、日本語で本を書きたいと思っています。次の世代、更にその次、500年後の人々ともヴィジョンを分かち合いたいのです。
 
(2009.6 新生堂にて取材)  
  マコト・フジムラ(まこと・ふじむら)
1960年 アメリカ・ボストンにて生まれる
1983年 ペンシルヴェニア州バックネル大学卒業
1983年 カムラウディー賞、クリエーティブアーツ賞受賞
1986年 文部省国費留学生として来日
1986年 東京藝術大学日本画科に研究生として入学
1992年 同大学大学院日本画科博士後期課程満期退学
1992年 個展(東京藝術大学芸術資料館/東京)
1993年 個展(かわさきIBM市民文化ギャラリー/神奈川)
1994年 VOCA展(上野の森美術館/東京)('96)
1994年 日本画家の青春展(郡山市立美術館/福島)
 
  1995年 山種美術館賞展(山種美術館/東京他)('97)
1995年 個展(ディロンギャラリー/ニューヨーク)('97、'98、'01、'03、'08)
1997年 個展(佐藤美術館/東京)
1998年 「花と緑・自然を描く」展(佐藤美術館/東京)
1998年 「日本画」:純粋と越境(練馬区立美術館/東京)
1999年 NHK「土曜美の朝」に出演 個展(潺画廊/東京)('00、'01、'05)
1999年 ニューヨーク・ザ・キングス大学の講師就任
1999年 「現代日本絵画の展望」展(東京ステーションギャラリー/東京)
2000年 アメリカ、PBS“Religion&Ethics”の「最も期待される10人のリーダー」に選ばれる
2000年 インターナショナル、フーズフーの「20世紀の芸術家2000人」に選ばれる
2001年 「日本画」現代と革新(天竜市立秋野不矩美術館/静岡)
2003年 ニューヨークにおける美術家としての実績と同時多発テロ事件の影響を受けた作家たち
2003年 を励ます活動(トライベッカーテンポラリー)が大統領に認められホワイトハウス文化
2003年 担当顧問に就任
2003年 現代日本画その冒険者たち(岡崎市美術博物館/愛知)
2003年 平和へのメッセージ展(佐藤美術館/東京)
2003年 東北芸術工科大学客員教授に就任
2004年 超日本画宣言(練馬区立美術館/東京)
2004年 作品集「砕かれた美」Splender of the Mediumを刊行
2005年 花めぐり―日本画にみる花―(茨城県天心記念五浦美術館/茨城)
2005年 アートフェア東京(画廊たづブース 東京国際フォーラム/東京)
2005年 オペラ劇場The Kitchenにて作曲家Susie Ibarra、詩人Yusef Komunyakkaaとコラボ
2005年 レーションを行う(NY)
2006年 小泉首相最後の訪米時のホワイトハウス晩餐会に文化顧問として出席
2006年 The City of London Festivalにてオノヨーコと教会(ALL Hallows Church)でインスタ
2006年 レーションを行う
2007年 画文集「RIVER GRACE」を出版
2007年 Susie Ibarraとカーネギーホールでライブペインティングのコラボレーションを行う
2007年 「賛美小舎」上田コレクション展(練馬区立美術館/東京)
2007年 「トライベッカ−パフォーマンスセンターにてピアニストJerzy Sapieyevski
2007年 シェフMiguel Sanchez Romeroとのライブコラボレーションを行う
2008年 新収蔵品展―賛美小舎上田コレクションより(東京都現代美術館/東京)
2009年 ホワイトハウス文化担当顧問任期満了 Chairman's Medal受賞
2009年 Refractions:a journey of art,faith and culture NavPressを出版
その他、個展・グループ展・公演会など多数開催
パブリックコレクション 練馬区立美術館 佐藤美術館 東京都現代美術館 キッコーマン ビリーグラハムセンターミュージアム 東京芸術大学 他
(編:立島 惠)