高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
はじめまして岡村桂三郎です。
 
その31−勝手ですが、日本美術代表を発表します!!!ミッドフィルダー編(前編)
 *画像をクリックすると拡大画面が開きます。
  岡村先生の楽しいコメント付きです!
 
   いやいや、どうも。月日が経つのも早いですね〜。あれから、なんだかんだとしているうちに、ずいぶんご無沙汰してしまいました。気が付けば、半年ぶりになってしまいましたね〜‥‥。
 もはや季節は春になってしまいましたよ。越生では、梅の花が咲いていますよ。いや〜、ゴメンなさい!

 僕の方は、まさに、ただ今、銀座のコバヤシ画廊で、僕の個展が絶賛?開催中の真最中になっています。いや〜、今回も大変でした!(3/7[月]〜19[土]日曜休廊) まぁ、この個展に至るまでの半年間、展覧会はもちろん、他のことでも、いろいろやっていたような気がしますし、なんだかんだと日々忙しく過ごしていました。
 
   そうそう、展覧会と言えば、ギャラリートークのために瀬戸内海の大三島や大阪へ行ったりしていました。それから、展覧会じゃないけど、京都と奈良へ学生を連れて研修旅行へ行ったり、台湾の故宮博物院へも行ったりしてました。それぞれ楽しい旅行でしたが、行く先々で素晴らしい作品と出会えたことは、本当に良かったです。特に、京都や奈良、故宮は感動ものでした。

 つくづく思うのですが、本当に世の中には、素晴らしいものが沢山ある。僕らが、作品を描こうとする時、その前にはいつも、すでに膨大な数の傑作が存在していて、「今さらこの上、何を追加するのか?」そう思ってしまうことも時々ないわけでもないのです。しかし、もの凄い作品と出会うという体験、その感動は、たいていの場合は、即、「今まで、見たこともないモノを創造したい。」という欲望を、沸々と僕に、沸き起こしてくれているのです。
 
   さてさて、そんな傑作の宝庫の美術の世界。僕の?日本美術代表の方も、いよいよミットフィルダーを発表することにしましょう!

■ボランチ:農民(のうみん)、
      縄文人(じょうもんじん)

 やはり、このポジションはゲームを創造するための心臓です。日本美術にとって最も重要な、実力者。骨身も惜しまず働く汗かき役、ゲーム展開を決定づける舵取り役を選出しなければならないと思いました。いろいろ考えた結果、僕としては農民と縄文人ということになってしまいました。

 話しはちょっと真面目になってしまいますが、例えば画家というのは、絵を描き、それを売っていくというものではありません。いわゆる職業ではないのだと思っています。言ってみれば、画家という生き方が、画家というものを成立させていると思うのです。
 どんな風景の中で、何を食べ、どのような空気を呼吸して暮らしているのか。何を感じ、どのように考え、作品を創造するのか。そして、どのような人生を描いていくのか。 思索しながら生きて行く。そんな中で、作品を生み出していく。僕は、そんな風に考えてきました。そういった意味でチームの心臓には、ちょっと強引ですが、どうしたって農民と縄文人しかありえないと考えたのです。
 
  ■農民
 日本の美術は、少なくとも日本国内の様々な植生と風土の中で生み出されてきたものであるということは間違いないのでしょう。
 日本の多様な自然環境と深く係わり、人の暮らしと自然との関係の中で、日本の風景を創り出してきた張本人は誰なのか。その中でも、もっとも重大な影響を与え続けたのは、何と言ってもこの土地から食物を生産してきた農業であり農民だったと考えるのです。代表作は、日本の風景です。
 ランドアートなどとチッポケなレベルではなく、2千年以上の年月をかけ、日本の風景全体を根底から創造し、僕たちの思想や感性に決定的に影響を与えてしまった農業。もちろん日本の芸術も、その農民たちが創造してきた風景の中から生み出され続けているのです。
  ■縄文人
 そして、忘れちゃならないのが、レジスタ縄文人の存在です。代表作は縄文土器と土偶ですかね〜?
 数年前に、「岡本太郎の見た日本」(赤坂憲雄著・岩波書店)が出版されました。とても面白い本です。
 縄文土器を発見した岡本太郎が、日本を発見する旅に出ていますが、岡本太郎の鋭さを改めて確認するとともに、日本文化に対する新たな視点を与えてくれるものでした。
 太郎と僕を重ねて考えるのも恐れ多いのですが、僕が東北へ教師として通っていた9年間は、東北を通して、日本を体感するための期間だったのかも知れないと感じています。そして、その中から縄文というものも、僕自身の身体の内側から育っていったような気もしているのです。
 縄文文化は、決して縄文時代だけのものではありません。現代文明を支える地層の中でもその最下層の辺りで、縄文は今でも地下水脈となり滔々と流れているような気がします。そして、僕たちの暮らしの周辺にも、そこかしこで、泉のように縄文が湧き出しているように感じるのです。
 縄文土器のあのダイナミックな造形がなぜ生まれるのか。それは、今では実感として理解できるような気がしています。

■ウィング・ハーフ 狩野永徳(かのうえいとく)、
          長谷川等伯(はせがわとうはく)、
          喜多川歌麿(きたがわうたまろ)、
          尾形光琳(おがたこうりん)

 いや、これは!!思わず絢爛豪華なメンバーになってしまいましたね〜!
 それでは、まず、狩野永徳について話しましょうか。
 
  ■狩野永徳
 2007年の「'Round About」の第39回で、僕と河嶋淳司さんで狩野永徳について語り合っています。興味のある方は、そちらの方もどうぞ。
 しかし、あの対談をした時は、当時開催されようとしていた京都国立博物館の狩野永徳展を、実はまだ見ていなかったのです。もちろん、それまでに永徳の作品は何度も見てはいたのですが、あれだけの物量で永徳を見たのは、もちろん初めてでした。
 あの時は、日帰りだったのですが、ともかく、京都まで電車と新幹線とタクシーを乗り継いで京博にたどりつき、入場するまで何時間も並ばされ、やっとの思いで作品の前にたどり着いたけど、見えるのは人の頭ばかりで大変だったのを憶えています。
 しかし、それでも、やっぱり永徳は凄かったですね〜!僕は、その時初めて永徳という絵師と出会った気がします。
 やはり、その凄まじいほどのイマジネーション力!正直、僕はその会場で、作品を観ていてワクワクしてしまいました。この絵を発想した時は、恐らく永徳自身、快感が走ったのではないかと感じました。そんなことが実感できる作品が、ゴロゴロとありました。あまりに気持ちが良いので、僕は会場でニヤニヤと顔が笑っていたかも知れません。
 金箔や彩色によって豪華に描かれてはいますが、永徳の永徳たるところは、直角的で豪快な絵画構造、その構想力は、古今東西抜群だと思います。それらを完璧なバランスを保ちながら、無垢な状態で提示されている。そこから生まれる爽快感なのです。

 ここで狩野探幽についても、付け加えておきたいと思います。
 多摩美に行くようになって、例の研修旅行のおかげで、修復された二条城の探幽の障壁画を見る機会に恵まれました。その二条城の作品を見て、探幽への意識が変わりました。二条城の作品を描いていた頃の探幽は、永徳の同類ですね。イマジネーションをする力が、抜群です。永徳と同じレベルですよ。「やるじゃん!探幽!!」と、やっぱりここでもニヤニヤしてしまう僕なのでした。
 
  ■長谷川等伯
 狩野永徳の向こうを張って、存在感を際立たせている絵師が、長谷川等伯です。はっきり言って国民的人気作家ですね。昨年、東京国立博物館で開催されていた長谷川等伯展も、やっぱり凄い人気でした。人気に関して言えば、もしかしたら現在では、永徳の上をいくかも知れませんね。
 狩野派に対抗するような絢爛豪華な作品としては、現在智積院(ちしゃくいん)にある「楓図壁貼付」(かえでずかべはりつけ)が有名ですが、これは、おしゃれですね〜。永徳が亡くなって間もないころの作品ですから、色々な意味で意識していたのでしょう。永徳風のゴッツイところがこの作品の魅力の一つになっています。けれども、そのフォルムは、永徳に比べて遥かに曲線的で、優美です。ちょっと大和絵風なのです。そして更に、香雪美術館の「柳橋水車図屏風」(りゅうきょうすいしゃずびょうぶ)や相国寺の「萩芒図屏風」(はぎすすきずびょうぶ)に至ると、ほとんど琳派ですね。

 しかし、長谷川等伯と言えば、一番人気は何と言っても、「松林図屏風」(しょりんずびょうぶ)ですよ。なんと言っても、日本美術を代表する水墨画です。
 長谷川等伯展でも最後の部屋にあって、ちゃんと特別扱いされていました。僕も沢山の人々に混じって、「おぉ〜!これは、これは!」と、鑑賞させてもらいました。描かないことによって描くという、これぞ日本美術代表!って感じですよね〜。
   
   ところで僕は、その展覧会場で、松林図が展示されていた部屋のその前の部屋にあった作品たちの事なのですが、それまでの等伯の作品とは明らかに一線を画す作品が並んでいたのに気が付いていました。実は、「ここで一段階、抜けたな。」と、感じたのです。
 作品の良し悪しとは、全く別次元の話なのですが。たとえば金地院の「老松図襖」(ろうしょうずふすま)にしても、出光美術館の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」(まつにう・やなぎにしらさぎずびょうぶ)にしても、作者の作品に対しての立ち位置が、明らかに変更になったのを感じたのです。
 僕は、等伯が何かを止めてしまったような気がしました。何かの確信を持った。それまでやっていたことを、それをする必要がなくなった。それはいったい何なのか?はっきりとは言えないのですが、少なくとも、鑑賞者に対する媚のようなものが、極端に淡白になっているような気がします。いや、それだけではありません。絵を仕上げるための何かを、放棄してしまっている。しかし、それで充分であるということにも気が付いている。
 こういうのを、境地に入るって言うんですかね〜。どうなんでしょ?
 もう一つ、等伯にかかわる忘れられない思い出があります。
 僕が学生のころ、金地院で猿猴捉月図襖(えんこうそくげつずふすま)を見たことがありました。小さな庭に面した部屋にその襖ははめられていて、障子は開けられていました。縁側越しの庭と猿猴捉月図によるコラボレーション。
 「なるほど、こういうものなのか。」と、僕はその時初めて、日本の絵の本来の有り様に気が付いたのでした。
つまり、装置としての絵画。環境としての芸術というようなものをです。

 さてさて今回はここまでとして、次回ミッドフィルダー編(後編)に続きます。
 近日アップ予定!お楽しみに!
   
 
【インフォメーション】
現在「岡村桂三郎展」が開催中!また「高橋コレクション日の出 オープニング展覧会「リクエストトップ30−過去10年間の歩み」」、第2回「こめつぶつぶより展」に先生の作品が出品されています。
お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り下さい!


 
展覧会名 岡村桂三郎展
会場 コバヤシ画廊
 東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1F
 tel:03-3561-0515
 http://www.gallerykobayashi.jp/
会期 2011年3月7日(月)〜2011年3月19日(土)*日曜休廊
時間

11:30AM〜7:00PM

展覧会名 高橋コレクション日の出 オープニング展覧会
「リクエストトップ30−過去10年間の歩み」
会場 TBLOID GALLERY
 東京都港区海岸2-6-24 TABLOID 1F
 tel:03-6435-3173
 http://www.tabloidgallery.com/
会期 2011年2月18日(金)〜5月14日(土) *月・日曜休廊
時間

12:00PM〜8:00PM

 

高橋コレクションWEBサイト:
http://www.takahashi-collection.com/

展覧会名 第2回「こめつぶつぶより展」
会場 ギャラリィ&カフェ 山猫軒
 埼玉県入間郡越生町龍ケ谷137-5
 tel:049-292-3981
 http://www.geocities.jp/ura3tametomo/
 http://www.gallery-cafe-yamanekoken.com/
会期 2011年4月8日(金)〜2011年6月26日(日)
*金・土・日・祝日 開廊
時間

11:00AM〜7:00PM


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