高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
 「ヒトは、なぜ、絵を描くのだろう?」「そして、何を象徴しようとするのか。」例えば、そんな大命題のもとで、様々な分野の先生方が色々と話してくれるという授業が、僕が勤めている大学(東北芸術工科大学)に有ります。それは、デザイナーの先生が話す時は、「ヒトは、なぜデザインをするのか?」になったり、生物の先生の時は、「ヒトは、なぜ人の形をしているのか?」と言うように、少しずつ形を変えるのですが、いやいやこれがなかなか面白い。
 僕も1回担当して講議をしたのですが、それだけではなく、毎回の授業にオブザーバー的に参加して、色々な先生達に勝手な質問をしたり、感想を述べさせてもらったりしていました。この大学には、「こんな面白いことをしている人が、こんなにいるんだ!」と思えるだけでも楽しくなってしまうのですが、僕がいる世界と少し距離のある世界で活躍されている人々が、何を感じ、何を考えながら、表現行為や研究活動をしているのか、と言うことが感じ取れる、おまけに授業の後で一杯やって、本音でいろんな話ができる、公私ともに有意義な授業だったと思います。
 
   
 
 これは、インド哲学の久保田力先生がコーディネーターとなって構成された授業で、「象徴の森」という授業なのですが、僕としては、毎週、不思議な森を散策してきたという思いです。登場した先生は、この授業のコーディネーターでインド哲学の久保田力先生、京都大学教授で不老不死のクラゲの研究者の久保田信先生、版画家の若月公平先生、洋画家の木原正徳先生、生物学者の山崎裕先生、タルコフスキー研究家でドイツ語の高田隆太先生、グラフィックデザイナーの上條喬久先生、実験芸術の安部定先生、映像作家?ひかりのアーティストの松村泰三先生、天使論の安発和彰先生でした。
 
 
コーディネーターのインド哲学の久保田力先生です。「象徴の森」という言葉 は、ボードレールの詩に出てくるのだそうです。「芸術的創造が人間を癒す力を持つ 点において、芸術は疑似宗教であり、同時に人間を変容させる力を持つ点において、 芸術は疑似呪術でもあると私は思っています。」と言うのだった。
版画家の若月公平先生です。物静かな中にも、作家としての厳しさを感じました。
 
   
 
若月先生は、黒板に「アイデンティティー」と書いています。
洋画家の木原正徳先生です。誠実な等身大の言葉で、色彩を中心に自分の制作活動を話してくれました。僕としては特に、独特のブルーが好きでした。
 
     
 
生物学者の山崎裕先生です。僕と同じように毎回オブザーバー的に参加してくれてました。講議の中で触れていた、アクア進化説(人類は水辺で進化したという説) は魅力的でした。僕はチョット信じてます。
ドイツ語の高田隆太先生です。この先生、そうとうな映画マニアなのです。こ の日は、タルコフスキーの映画について熱く語ってくれました。
 
 
 ところでイッタイ、僕はなぜ絵を描いているのだろう・・・・ウーム。もうすぐ、展覧会の搬入があるから?・・いやいや、ここで言うべきは、そのことではないだろう。
 授業では、まずラスコーの壁画(注)のビデオを視ることから始まるのですが、ラスコーやアルタミラで1万数千年前、ショーヴェ洞窟の壁画に至っては、ナント!3万年以上も前の絵が発見されているというのだから、その途方もない年月を思い描き、その間に人類が描いてきた絵のことを思い巡らしてみると(・・・・いや余りに膨大過ぎることで、思い巡らすこともできないのだけど)、人類は3万数千年もの間、ずっと繰り返し絵を描いてきて、そして、その途方も無い繰り返しと連続の果てに、僕達は今、やっぱり同じように、進歩もせずに、絵を描いているということは、どうも確かなことのようなのですね。・・・・・・・なんだか気が遠くなってきた。

 しかし、やっぱり、「これは当然のことなのだ」と、この場では言っておくことにしましょう。僕達ヒトは、外界と接触し、自然界の中で生きていく為に、どうしても、美しいとか、醜いとか、恐ろしいとか、そういった直感が必要不可欠なことなのですが、絵を描くという事もそれらと関係して、人類の生命維持に必要不可欠のこととして、有ったのではないかと思うのです。
 僕達は、視ることができます、そしていろいろな事をイメージすることもできます。それは何万年も前の僕達も、やっぱり同じようにできたのは当然のことなのだろうと思います。
 じゃあ、何万年もの間のヒトと同じに、今日また、しょうこりも無く、絵を描こうとする僕は、なぜ描こうとするのだろう?何のために!
 
 
グラフィックデザイナーの上條喬久先生です。例えば、セキスイハウスのマークや、ヨネックスやライオンのマークもこの人がデザインしたものです。知らないう ちに僕達は、生活の中で、上條先生のデザインに親しんでいた事に気付かされました。
実験芸術の安部定先生です。工芸の鍛金の先生でもあります。様々な活動を行っ
ている人です。この行動力に脱帽。特にドイツの友人の、パフォーマンスが面白かったですね。
 
     
 
こういうのを、なんと呼んだらいいのか?影像作家?ひかりのアーティスト? ともかく松村泰三先生です。「僕は、あらゆるものを、もっと、よく視たいと思って るんです。」と話してくれました。
久保田先生(右)のとなりにいるのが、天使論の安発和彰先生です。僕は去 年から鳥を描いていますが、その発端は、安発先生の天使論の講議だったのです。今 度は、悪魔論も聞きたいな〜。
 
 
 
お酒を飲む安部先生(左)と久保田先生。講議の後は、いつも飲み屋へ通ってました。
そして忘れてならないのが、この先生。教育心理学の小松秀茂先生です。今年 の講議は担当してもらえなかったのですが、影のコーディネーター(夜のコーディネー ター)と呼んでもよい人です。毎週飲み屋さんでは一緒でした。
 
 
  <注>
洞窟壁画といえば、フランスのラスコー、そしてスペインのアルタミラ(1万3500年前)だが、ラスコー(1万8千年前)よりも古い今から3万年前の線刻画が、フランス南東部のショーベ洞窟で発見された。この年代が特定できたのは、放射線微粒子加速装置という最新兵器によってである。ラスコー以上にその描法も精密であり、必ずしも単純から複雑へと進化していくとは限らないことが証明された。
(2001.10.4愛媛新聞より)
 
  ※ラスコー洞窟のサイト http://www.culture.gouv.fr:80/culture/arcnat/lascaux/en/

 
   
 
【インフォメーション】
現在、山種美術館で8月22日まで開催中の展覧会『日本画の中の動物たち』と、8月21日から東京国立近代美術館で開催される『琳派 RIMPA』に、岡村先生の作品が出品されてます。お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り下さい!
展覧会名 日本画の中の動物たち
会場 山種美術館
 東京都千代田区三番町2番地 三番町KSビル1F
 tel:03-3239-5911
 http://www.yamatane-museum.or.jp/
会期 2004年7月3日(土)〜2004年8月22日(日)
※休館日:月曜日
時間

10:00AM〜5:00PM(入館は4:30PMまで)

観覧料

一般500円・大高生400円・中学生以下無料


展覧会名 琳派 RIMPA
会場 東京国立近代美術館 本館 企画展ギャラリー(1階)
 東京都千代田区北の丸公園3-1
 tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
 http://www.momat.go.jp/
会期 2004年8月21日(土)〜2004年10月3日(日)
※会期中無休。ただし、9/13(月)は展示替えのため休館。
時間

10:00AM〜5:00PM(金曜日は8:00PMまで)
※入館は閉館30分前まで

観覧料

一般1300(950)円/大学生800(500)円/高校生500(200)円
※中小生は入場無料。()内は20名以上の団体料金。前売り券あり。



 

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