高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
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vol.16「2008年夏 お仕事日記」  
 暦のうえでは8月7日の立秋をもって秋になるのだそうだ。けれど、年々亜熱帯国のようになってきたこの日本で、誰がそんなの信じるものか。で、一体いつをもって夏が終わるのかよく分からないけれど、ひとまず9月に入ると「ああ、夏が逝ったなぁ……」なんて少々センチメンタルになったフリなんかしてみたりする。けれど外に出れば相変わらずのこの暑さ。結局、気分のものだ。子どもの頃、夏休みは長い長い時間に思えて、それだけに夏が終わりにさしかかると、なにかたまらなく切なくて淋しかったものだけれど、最近は年間の展覧会スケジュールを並べてみれば来年の夏ももうすぐ目の前のこと。けれど「年々、一年が早くなるねぇ」なんて月並みなオジサンのきまり文句は言いたくはない。
 余談だが、オジサン達定番の「今どきの若いもんは……」ってつぶやきは、かのロゼッタ・ストーンにも刻まれているらしいけれど、「年々、一年が早くなるねぇ」も太古の時代からの常套句なのだろうか。あぁ、嫌だ嫌だ。
 さてさて今回のコラム、そんな大人の短い夏をダイジェストで絵日記風にお送りしたいと思います。
 
7/16〜7/25「Metalworks of AKIO OHMORI」ギャラリー和田  
 うっとうしい梅雨が明けて、まずはギャラリー和田での個展「Metalworks of AKIO OHMORI 」。
 ここ数年発表してきたブロンズ全作品をまとめた個展だ。最近は幸いなことに毎年いくつもの個展や展覧会をやらせてもらっているけれど、考えてみたら銀座の画廊での個展というのは実に7年ぶりのこと。飾り付けをしながら、なにか妙に初々しい自分に戸惑ったりする。
 おかげさまで個展は盛況で、心配していた販売のほうも幸い画廊さんのご期待に添うことができた。なにより、この猛暑の中、銀座まで足を運んで下さった皆様、どうもありがとうございました。
 
7/24足立の花火  
 このコラムvol.1でも紹介したウチの工房の恒例行事。お世話になっている皆様をお招きして、今年も年に一度の大宴会。5年前にわずか10人くらいで始めたこの宴会も、いつのまにやら80人規模の大宴会に。仕事の発展は皆様とのご縁の賜物。感謝、感謝。  
7/25〜7/27「西武ギャラリーアートフェア」池袋西武百貨本店  
 一般のお客様ももちろん入れるのだけれど、主に外商顧客を中心にアナウンスした展示会だ。僕自身、この仕事を始めるまで百貨店が定期的にこういう展示会をしているなんてまるで知らなかった。日本画や洋画の大家からウォーホルやポロック、キース・ヘリングまでなんでもある。美術の観せ方、売り方はいろいろあるけれど、こういう販売会はある意味もっともリアル。商品としての自分を妙に冷静に見られるところは、それはそれで良いと思っている。
 それにしても、シャガールの屏風とピカソの名画をバックに展示してある大森暁生の彫刻はなかなかオツなもの。
 
7/30〜8/19 gallery×AKIO OHMORI コラボレートTシャツ2008 AUTUMN and WINTER販売  
 Tシャツブランド「gallery」を運営しているshowroom SIDEの横堀さんとは、昨年春の新宿高島屋・美術画廊でのオープニング個展以来のお付き合い。その際、画廊で販売するTシャツを作って頂いたのがきっかけとなり、今回のコラボレートブランドへと発展したというわけ。
 全国の取り扱い店での販売に先駆け新宿高島屋内TOKYO in PROCESSというコーナーでお披露目。美術画廊以外のスペースに自分の作品や商品が並ぶのは新鮮な感じだ。
 
7/31 江戸川競艇アートミュージアム(EKAM)大森暁生ブース完成。  
 コラムvol.4でもお伝えした江戸川競艇アートミュージアム。以前から大森作品を積極的にコレクションして下さっている。今回、大作「Gothic rose」の収蔵に合わせて大森暁生ブースが完成したというので、ワクワクしながらミュージアムへ。額装した図面と木彫作品とを並べた展示は我ながらカッコいい。裏にまわると「Butterfly in the frame」と「天使の赤い薔薇」「デビルの黒い薔薇」もショーケースに綺麗に収まっている。いやぁ、嬉しいものだ。他にも様々なジャンルの収蔵品が展示してあり、それらを案内して頂きながら競艇体験までできるこちらのアートツアーは、食事まで付いて一日たっぷり楽しめるので是非一度お出かけ頂きたい。
 現在、江戸川競艇アートミュージアム(EKAM)のロゴマークのデザインもさせて頂いていて、近々完成予定。こちらもお楽しみに。
 
8/5〜8/27 軽井沢日動画廊展示。  
 観光地でアートを観るのはまたひと味違うものだ。きっと観る側の自分の気持ちが違うからなんだと思う。観光地って、あんまり難しい顔をした人はいないし、それが心地いいのかもしれない。軽井沢日動画廊のこの展示も、是非そんな気分を味わいたくて行ってみたかったのだけれど、残念ながらどうしても時間がとれなかった。自分の作品の展示も確認できないようじゃ作家失格だな、と反省。  
8/6 TORNADO MART Tornado Mart femme 08AUTUMN/WINTER カタログ完成。  
 今春、コラボレーションの仕事をさせて頂き、このコラムvol.11でもお伝えしたアパレルブランド「TORNADO MART」さん。その秋冬カタログの撮影がウチの工房、事務所、住まい、屋上まで、全部使って行われた。カタログのディレクションはアートディレクターの世継さんという方。以前から僕の作品を気に入ってくださっていて、今回の企画に結びつけてくれた。撮影自体は6月末に行われたのだけど、ついにカタログ完成。全国のTORNADO MART およびTornado Mart femme 全店に置かれることになる。
 下町の我が工房がファインダーを通すと、どこか外国のアトリエみたいだ。全国からウチを覗かれているみたいでなんだかくすぐったい。
 
8/7〜9月中旬「AKIO OHMORI SCULPTURES」シブヤ西武百貨店  
 ここ最近は、イレギュラーの展示というのも、珍しい事ではない。今回も突然に入ってきた企画。シブヤ西武B館8階のテナントショールームをひとつまるまる使って展示してくれとの事。各取り扱い画廊にご協力頂き、急遽作品を用意して飾り付けへ。
 閉店後の百貨店での作業というのはなんだかワクワクするものだ。しかもこの階は高級雑貨フロア。宝石に貴金属、高級時計の数々。ルパン三世になった気分。怒られるね。それにしても暑い……。そうか百貨店といえども閉店後はクーラー切れるのか。あたりまえだね。画廊スタッフの皆さんと共に汗だくになりながら作業終了。おかげさまでなかなか良い展示になった。こちらは9月中旬までの展示。
 
 
 ワン・ピース倶楽部は、美術界の有名人 石鍋博子さんが主宰するコレクターの倶楽部。「会員は一年に1作品、アートを買おう」というスローガンを掲げる、我々作家とっては神様のような方達なのだ。その会員のお一人が大森作品を所蔵してくださっていて、今回のコレクション展に出品してくれるというので、会場のレントゲン・ヴェルケへ。親しい画商さんや、友人知人もいっぱい来ていて楽しかった。でも、なんだか妙に照れくさいもの。  
8/20 ACAF NY第1便ピックアップ。  
 今秋11月に予定している、ACAF NY(アジアン・コンテンポラリー・アートフェア・ニューヨーク)での個展用出品作品の第1便を早々と船に載せる。
 船便は1ヶ月かかるうえに、美術品は税関を通すのにさらに一ヶ月ほどかかるらしく、会期の二ヶ月も前に発送するのだ。こっちはまだまだそんな気分になれないのだけれど、とにかく第1便の作品を徹夜で組み上げ、ピックアップに備える。
 午後、海外輸送業者さんが工房に来てくれて、手際よく梱包。美術運送のプロフェッショナルな作業は、見ていていつも惚れ惚れする。カッターの使い方、テープの止め方、ダンボール箱の組み上げ方、ヒモの結び方、どれをとっても勉強になる。で、今度さりげなくこの技を自分で披露して、「どおよ」って見せびらかすわけね。
 
8/20〜8/27「空中庭園」展 ギャラリー小暮  
 毎年恒例の画廊企画展。今回も11人の作家がそれぞれ、今年のお題「空中庭園」を創り出した。年に一度この展覧会でだけ会う作家さんもいて、それも楽しみの一つ。
 それに今年は同じく木彫作家の須田悦弘さんにも初めてお会いした。気さくな方で意気投合。打ち上げの席では、ちょうどテレビでソフトボール日本代表チームが北京五輪準決勝を戦っていて、上野投手の熱投を皆で応援。
 
9/1 gallery×AKIO OHMORI コラボレートTシャツ2009 Early Springサンプル上がり。  
 アパレルの世界はとにかく動きが早い。ついこの間、2008年の秋冬モノを発売し出したと思ったら、もう春モノのサンプルが上がってきた。先月、来期のTシャツの打ち合わせをして、今回は「ぬけない棘のエレファント」と「愚かな装飾-Doberman-」をTシャツに落とし込む事に決まった。けれど、動物モチーフは子供っぽくなってしまわないか、少し心配だった。
 ところが、さすがデザイナーさんの仕事は素晴らしい。心配するどころか、ほんとにカッコいい出来ですぐにでも着てみたい。とくに「愚かな装飾-Doberman-」を使ったTシャツは古着のアメカジっぽくて、いかにもなアートTシャツじゃないところがすごくイイ。作品が違うカタチで活きてくるのは本当に嬉しい事。しかもこの仕事、楽しいからハマりそうで怖い。
 
9/2 Switch「THE PREDATORS」撮影。  
 雑誌『Switch』の企画で、THE PREDATORS(Vocal,Guitar:山中さわお[the pillows]、Bass:JIRO[GLAY]、Drums:ナカヤマシンペイ[ストレイテナー])のページを創るにあたり、スタジオ撮影で大森作品を使いたいとの依頼がきた。
 『Switch』の編集者とは以前某ライブ会場で友人を通して知り合ったのだけれど、話はいろんなカタチで繋がるものだ。とはいえ、僕のケータイに連絡がきたのは撮影本番5日前のこと。アパレルも音楽業界もとにかくスピードが早い。これじゃあ、アートは世間のカルチャーから遅れをとるのも当たり前か。だからというわけではないけれど、面白そうな仕事は「時間はなんとかなるさ」と「はいはい」と受けてしまうので、結局いつも自分で自分の首を絞めている。今回も大急ぎで先方希望の作品を用意して、打ち合わせの後いざ撮影本番に臨む。コラムvol.2でお伝えした「EYESCREAM」や先に書いた「TORNADO MART」のカタログロケなど、こういう撮影はとにかく新鮮で刺激になる。なによりミュージシャンやファッションなどのもつパワーに対して、自分の作品がどれくらいチカラを持って対峙できるのか、そこも自分にとっての楽しみなのだ。
 今回撮影をしてくれたカメラマンの新保勇樹さんは、なんといつも大森作品の撮影をして下さっている写真家・遠藤桂さんの教え子だったというサプライズもあったりして、緊張の中にも皆楽しみながらの撮影が出来た。『Switch』担当者も満足のいく写真が撮れたようで、自分も嬉しい。
 仕上がりは10月20日発売の『Switch』11月号にて、6ページにわたり掲載予定。お楽しみに。



と、一気にこの夏をまとめてみたけれど、気がつけば早夏も終わり。
さあ今年も残り半分、頑張るか。

……いやいや

夏は一年の真ん中じゃない事を、毎年夏が過ぎて再認識するのだ。

年々、一年が早くなるなぁ…………。

あっ。
(2008.09.07 おおもり・あきお/彫刻家)
 

 


8/7〜9月中旬「AKIO OHMORI SCULPTURES」シブヤ西武百貨店 8/18「ONE PIECE CLUB」展 レントゲンヴェルケ