高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。
 
vol.11「TORNADO MART」  
 30 代を目前に控えていた七、八年前、自分の作るモノを他の分野で活かしてもらえないものかとあれこれ模索していた。これといって美術業界に不満があったわけでも満足していなかったわけでもないのだけれど、なにか他の世界の人達に自分の作品がどう映るのか、美術界とは違った視点から評価をもらいたかったのだと思う。だから会う人会う人に、積極的に自分の希望や意志を話してみたり資料を見てもらったりして、中にはその気持ちに応えて他業界の方を紹介して下さったり、なんとか僕の作品を活用できないかと協力してくださる方もいた。
 このページの一番右下に載せている自身のファクトリー・マークもそんな気持ちの表れのひとつで、いつか自分の工房から、一点モノの美術品ラインとは別のファクトリーラインの商品のようなものが創れないかと、そのための下準備のつもりでマークをデザインした。けれど、これとて当初は自分の名刺に印刷するくらいしか使い道がなく、「なんで彫刻家なのにマーク?」と言われたり、ただのカッコつけと思われたり……。世の中だってそんなに甘くないわけで、すぐに良い話に繋がるわけもない。焦る気持ちと裏腹に、自分のチカラと実績の無さにもどかしさと悔しさで一杯だった。  それでも、常に頭の中でイメージしながら動いていれば、少しずつ夢は現実になってゆくものである。いろいろな仕事のご縁や繋がりの中から、CDジャケットのドローイングを担当させて頂いたり、CELT & COBRA、UNDERCOVER、RUDE GALLERYといったファッション・ブランドとのコラボレーションというかたちで、自分の発表の世界が徐々に拡がってきた。(vol.2vol.6参照)
 そして、今回またひとつ、自分の夢が実現したプロジェクトをここに紹介したいと思う。
 「TORNADO MART(トルネードマート)」。系列ブランドすべてを合わせると全国に133店舗を構えるファッション・ブランドだ。以前、その母体となるスピック インターナショナルという会社の会長と企画の方が僕の個展にお越しになり、作品を幾つか購入して頂いたのが最初の出会いだった。
 その後しばらくたったある日、「京都店の一周年記念に、何か一緒に出来ないか?」と突然連絡を頂いた。
 昨年夏のとても暑い日、下町にあるウチの工房まで会長みずから汗だくで、訪ねてきて下さったことを印象深く覚えている。日々個人でモノづくりを営んでいる自分にとって、企業のトップである方が同じ目線で向き合って下さる姿勢に心底敬服した。また、会長が語る夢や考えにも強く胸を打たれ、ご依頼もありがたく受けさせて頂くことにした。
 こういった他業種との仕事はけっこう興奮するもので、打ち合わせひとつとってみても、先方の会社の会議室で何人ものスタッフの方々を前に、自分の作品や資料を抱えてプレゼンに行く時などは、さながら異種格闘技戦に向かうかのような心地よい緊張感がある。



 今回のコラボレーションは、TORNADO MARTのためのオリジナル彫刻作品を8点、そして書き下ろしたドローイング3点を、一周年パーティー会場となる京都店および表参道店に展示し、あわせて大森作品の図案をもとに創り上げた十数種類のTシャツやアクセサリーを限定販売するという企画。それらのアイテムのタグやノベルティーグッズ、そして今回のプロジェクトを掲載している雑誌記事等にはTORNADO MARTのブランドマークと並んで、当D.B.Factoryのファクトリー・マークも誇らしげに記載して頂いた。
 こういった使われ方や拡がり方こそ、まさに当初ファクトリー・マークを作った時に抱いた理想や夢の通りであり、自分と一緒にマークも育ってきたかのような感慨深い気分だ。
 約半年、スタッフの方々と連絡を取り合い、さまざまな試行錯誤の後、2月22日ついに京都店一周年パーティーの日を迎えることとなった。作品の仕上げに苦戦し、最後の便をギリギリで京都店に送った後、自分も当日現地入りし半日をかけてスタッフの皆さんと会場を作り上げた。
 夜の7時から始まったパーティー は、常に会場に
入りきれないほどのゲストで溢れ、また TORNADO MART 独特のセンスが一層華やかに会場を彩っていた。
 創り上げたアイテムもおかげさまで大好評。自分のドローイングをプリントしたTシャツや彫刻作品の分身のようなシルバーアクセサリーを、ゲストの皆さんが次々と興味深げに手に取って頂けている光景は、普段の展覧会とはひと味違った新鮮な感動を覚えた。
 約三時間の華やかな一夜が終わり、多くの出会いを頂き、そしてその後皆さんと過ごした打ち上げは、なんともいえない幸せな気分で一杯だった。
 こういった企画やプロジェクトというものは、普段の仕事や良い発表が出来てこそのサプライズなご褒美だと思っている。そして、そういったご褒美を得れば得るほど、彫刻家とか作家、はたまた芸術家などと呼ばれる自分の仕事というのは、間違いなくエンターテインメントの提供者としての意識も持つべきだと強く感じる。プロを名乗る以上、一緒に仕事をさせて頂く相手、そして創り上げたものを見て頂く相手、そういった「相手」の方々が喜んで頂ける事こそ、作り手の幸せであるし生きている証なのだ。
 言葉にすればあたりまえの事だが、“表現” の仕事というのはどこかでエゴが過ぎた時、この大事な事を忘れてしまう。媚びることとは決して違う、“魅せる” ためのサービス精神。簡単なようで難しい。
 
 京都でのパーティーや残務を無事に終え、心地よい疲れとともに東京に戻ってくると、TORNADO MARTのスタッフの方々から、今回の企画の成功を喜んで下さる電話やメール、ファックスなどを次々と頂いた。また全てのきっかけを作って下さった会長からも直々のお電話を頂戴した。
 エンターテインメントとしての彫刻家、今回は幸いにも合格点を頂けたようだ。

(2008.03.28 おおもり・あきお/彫刻家)
【備考】
今回企画制作されましたコラボレーション商品は3月20日より、TORNADO MART WORLD京都店およびTORNADO MART表参道店にて限定販売されます。