高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。
 
vol.6「ガイコツ」  
 ここ数年、巷ではガイコツが流行っている。もっとも、その多くが洋服やアクセサリーといったファッションのデザインとしてなので、そういったアパレルの世界では“ガイコツ柄”とか“ドクロマーク”ではなく「スカルモチーフ」なんて洒落た呼び方をする。けれど、アパレル関係の友人達と話しをしていても「このガイコツのTシャツさぁ…」とか「ここにガイコツ入れたらかっこ良くない?」って感じで、やっぱり日本人には「ガイコツ」なのだ。それも「骸骨」ではなく「ガイコツ」。なんかカタカナのほうが骨っぽい。「ホネホネ・ロック」世代の自分としては勝手にそう断言する。
さてそのガイコツだが、自分のこれまでの人生において実はなかなか関わり深い奴なのだ。
 
 遡ること三十数年前、幼稚園に通う大森少年の憧れのヒーローはなんたって『キャプテンハーロック』だった。そう、松本零士氏が描くSF漫画の傑作だ。なにより「宇宙海賊」という設定にとにかくシビレていたのだ。幼稚園でも家でも粘土を握ると、決まってハーロックの乗る宇宙船アルカディア号を作り、頭の中はすでに大宇宙をかけめぐるハーロックになりきっていた。そしてそのアルカディア号の先端部分には巨大なガイコツのマークが誇らしげに輝いていたのだ。それがもうカッコ良くてカッコ良くて……。その後小学校に進んでも、図工の時間にはティッシュボックスを作ってもギターを作っても、とにかく何にでもガイコツマークを描いていた。
 時は過ぎ、高校生の大森青年。勉強が嫌いで大学受験にも失敗するありさま。行き場の無くなった出来損ないに担任が「おまえ将来何になりたいんだ?」と問いかけ、そこで青年は「警察の鑑識の仕事がしたい」と答える。被害者の頭蓋骨に粘土で肉付けをして元の顔を作り出す「復顔術」という技術、その仕事がしたかった。刑事ドラマなんかを見ていても主役の刑事よりも、たまに出てくる白衣を着た鑑識の技術者が、僕にはやけにカッコ良く思えたのだ。もともと職人の技というものには憧れを持っていたのだけれど、実際に自分がやるのであれば伝統を受け継ぐ江戸の職人とかよりも、なにか今日明日にその技術を必要とされているような、そんな技術者になりたくて、その矛先が何故か「復顔術」だったのだ。その言葉に担任はすぐに地元警察に問い合わせてくれて、その結果「そういった仕事に就くには美術大学を出なきゃダメらしいぞ」と教えてくれた。当時アート好きでも作家志望でもなかった自分は、こうして美術予備校というところの門を叩くのだ。  
 ひょんなきっかけから美術の世界に足を踏み入れたわけだが、二浪ののち愛知県立芸大の彫刻専攻へ進み、四年間の学生時代に表現の楽しさを知り、卒業の頃にはすっかり作家志望になっていた。卒業後もアシスタントの仕事をしながらマイペースに発表を重ね、だいぶ仕事も流れに乗って来た頃、自分の世界を大きく広げてくれる出会いがあった。元BLANKEY JET CITYのベーシストである照井利幸さんが立ち上げたCELT & COBRAというアパレルブランドからの仕事の依頼で、「ガイコツの燭台を作れないか?」というものだった。「海外にはガイコツ型の燭台はたくさんあるけれど、クオリティーが低い。その最高のものを作って欲しい」というこだわりに共感し、その仕事を引き受けさせて頂いた。

 当時の自分の持てる技術の全てを注いで取り組み、幸い大変喜んで頂けるものが出来上がった。そしてそのガイコツの燭台のエディション1番目を、やはりアパレルブランドUNDERCOVERのデザイナー高橋盾さんが購入して下さり、それが縁でその後UNDERCOVERのパリコレ出品用の作品をコラボレーションさせて頂く事となる。


 
 現在では、さらにRUDE GALLERY(vol.2参照)やTORNADO MART(来春コラボレーション個展を予定)といった、幾つものアパレルブランドと仕事をさせて頂けるようになったが、元々ファッションの世界に門外漢であった自分を新しい世界へと導いてくれたのは、そう「ガイコツ」なのだ。
 彫刻やアートなんて概念すらない幼稚園の頃からガイコツは僕を魅了し、その後の自分を美術の世界へと誘(いざな)い、鑑識の仕事には就かなかったものの、その後彫刻家となってガイコツを作る事となる。その時々には常に目の前の事しか見えていなくて、ガイコツとのこの不思議な関係も最近になってふと気付いたのだ。妙で素敵な因縁だと思っている。

 さぁこの先、「ガイコツ」はいったいどんなターニングポイントを僕に与えてくれるのであろう。少なくとも人は皆、人生の最後はガイコツとなって往生することだけは間違いないのだが。

(2007.11.09 おおもり・あきお/彫刻家)