高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
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『EYESCREAM』  
 世の中にはそれこそ星の数ほどの職業があるわけで、自分が生業としている「彫刻家」とて、それほど特別なものとは思っていない。けれど自分の人生で、この仕事をしていなかったら絶対にあり得なかったであろう出会いというものもある。
 20代の頃は、幸い作品に買い手が付いても、とても嬉しい反面、手放すことがひどくツラく、「こんな事ではプロになんかなれないのでは……」と真剣に悩んだこともあった。それはきっと、作品を手放すということが幾ばくかのお金との交換にすぎないと思っていて、その収入もいずれ使いきってしまえば作品そのものまで消滅してしまうかのような錯覚をしていたからであろう。
 けれど30代に入った頃から、気付くと自分のまわりにはたくさんの魅力的な人達が居て、今までの作品というのは彼らとの出会いと引き替えにしてきたのだという事を徐々に身にしみて実感し、それからは作品を手放す事がまったく苦ではなくなった。
 今回は、そんな出会いから生まれた仕事の話しである。
 
   チバユウスケさん。言わずと知れたミュージシャン。元THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、現在は
THE BIRTHDAYのボーカルである。かたやファッションブランドRUDE GALLERY。原宿キャットストリートにショップを構える人気ブランド。そして今回、『EYESCREAM』という雑誌での両者の誌面コラボ企画に大森作品も参加することになった。撮影に写真家MARI AMITAさんを迎え、ウチの工房でロケが行われたのである。
 そもそもチバさんと僕との出会いは2004年にリリースされた「RAVEN」*というアルバムのジャケット用ドローイングを僕が描かせて頂いた時からだ。それまでにもCELT & COBRAというファッションブランドと僕がコラボで制作した作品を、チバさんが買って下さったりしていたのだけれど、直接お会いしたのはCDジャケットの打ち合わせの席が最初だったと思う。その後も作品をオーダーして頂いたり、ライヴに呼んで頂いたりと、お付き合いさせて頂いている。
 そして、そういったファッションブランドさん達とのお仕事や、お付き合いの中で、RUDE GALLERYの社長やスタッフ達とも仲良くなり、今回の企画となったのだ。


 
 この企画、コーディネーターはRUDE GALLERYの社長であるカタヤナギ氏。彼は僕の展覧会にも何度も足を運んでくれている良き友人の一人であるが、今回はブランドプロデューサーとしての視点から、大森作品を抜擢してくれた。そしてチバさんもこの企画に快く応じてくれたのだ。
 撮影の数日前、ロケハンが工房に来て打ち合わせ。そして本番当日、いよいよチバユウスケ氏の登場である。同じくTHE BIRTHDAYのギターリスト イマイアキノブ氏もなんと飛び入りで遊びに来てくれるサプライズ(!)もあり、最初から楽しい雰囲気で撮影がスタートした。
 
 
 
   しかしそこは撮る側も撮られる側もプロ中のプロ。シャッターの音が響き始めると工房じゅうがキリッとした心地よい緊張感につつまれる。各スタッフ達も皆、それぞれ細やかに作業をこなす。僕の作品達もライトをあてられたり移動したりと大忙しなのだが、当の作者本人が一番することがなく、あっちへウロウロこっちへウロウロ、自分の工房なのに居場所が見つからない。「そうだ! コラムに載せる写真を撮らなきゃ」と邪魔にならないように気を遣いながらコソコソとパチリパチリ。何度も言うがここはウチの工房なのだが……。
 撮影中、THE BIRTHDAYのNewアルバムの曲を流していたのだが、ノッてきたチバさんは、ウチの拙いスピーカーから流れるそのメロディーに合わせギターを弾き始めたのだ! この時はほんとにシビれたなぁ。カッコ良かった。写真家AMITAさんもさすがこの瞬間を逃さず、これまたカッコ良く誌面を飾っている。なにせ今回は誌面10ページ+バックカバーの企画なので、撮影はゆうに二時間以上かかっただろうか。けれど目の前で次々と繰り広げられる刺激的な光景は、いつしか時間の経つことさえ忘れさせる。
 
 
 
   これまでは作品は作品として、かしこまって誌面に紹介されることが普通だったので、今回のように自分の彫刻を別のクリエイションとしてイジリたおされるような撮影に、僕自身すごく憧れていた。それはきっと作家本人の押し付けではなく、第三者の目で僕の作品から魅力を引き出そうとしてくれる作業であるからだと思う。そう、人に洋服を見立ててもらう嬉しさに似ている。

 撮影後に行われたトークセッションでカタヤナギ氏が「今日の撮影みたいに、仲間と出来るのはすごく嬉しい。造られた世界じゃなくて、なんか自然。」と話している。うん、ほんとうだ。こういった関係や出会いに感動し、それが嬉しくてたまらないから、今日もそしてこの先も作品を創ってゆけるのだ。

(2007.09.06 おおもり・あきお/彫刻家)


*「RAVEN」:PRESENTED BY TOSHIYUKI/PRODUCED BY RAVEN