高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
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vol.4「江戸川競艇」  
 自分の性格は堅実なのか思い切りが良い方なのか、実際僕自身よく分からない。堅実と言えば聞こえがいいが臆病ともとれるし、思い切りが良いなんてのも言い方を変えれば無鉄砲になる。美術で喰っていこうなんて発想をすること自体がそもそも無鉄砲なのかもしれないし、その一見無茶とも言える事を成就させるべく段階を追ってそれなりに手間のかかる作品を一つひとつ仕上げていく作業は堅実な性格でなければ成し得ないのかもしれない。買い物ひとつ取ってみても、事前にインターネットやパンフレットを熟読してからようやく買いに行くような性分なのだが、反面、衝動買いの悪いクセも持ちあわせている。そんな不可解な自分も、今日までギャンブルというものに対してばかりは自分の堅実な(臆病な?)側面が優先したのか全くのめり込んだという記憶がなく、縁遠いものであった。そんな自分だが、今回作品を通して江戸川競艇場とのご縁が出来たのだ。
これだから人生は面白い。
 
 


 

 今春開催した新宿高島屋での個展の際、江戸川競艇場の常務さんがお越しになり、作品「Butterfly in the frame」と「天使の赤い薔薇」「デビルの黒い薔薇」を購入して下さった。伺うと、江戸川競艇場内にアートミュージアムを造るためにさまざまな作品を観て回り、収集されているとのこと。けれど競艇場とアートミュージアム(???)、最初は少し違和感があったものの、最近はギャンブルというものの持つ一種独特なイメージを、もっと開けたものに変えるために様々な試みをされているらしい。同じギャンブルでも、競馬などはデートコースにもオススメといった広告やスター騎手のバラエティー番組出演などで、昔のイメージをだいぶ払拭しているように思う。
 そこへいくと競艇は、知らぬ者の勝手なイメージで失礼だが「生活かかったオジサン達が赤エンピツ片手に……」という感は否めない。なるほど、
そこへアートミュージアムを造って、それをきっかけに競艇に新たなファンを呼び込む――、面白そうではないか。しかも光栄なことに、今回の収蔵は僕自身にとっても記念すべき初めてのパブリックコレクションなのである。
 
 そして先日、ミュージアムの準備が整ったとのご連絡を頂き、早速拝見しに伺ってきた。なにせ競艇場初体験である。朝からちょっと興奮状態の自分。常務さん、場長さんにご挨拶の後、いよいよ場内へ。
 実は江戸川競艇場は「アートツアー」という企画を催していて、まさに僕のような初心者でも、アートに触れながら競艇を楽しめるように案内してくれる。場内にはムットーニ氏のカラクリ人形や広重の浮世絵といった作品から、江戸の小玩具、名作映画の復刻看板、昔の郵便ポストなど実に様々なジャンルの展示物で観る者を楽しませてくれる。
 
 


 
 昨今はコンテンポラリーアートが美術業界を賑わせていて、取引される金額が大きければ大きいほど、さも「今のアートの主流です」といった風潮すら感じるが、そういった表現はアートフェアや一部の限られた人間達のブームや評価であり、どこまで本当に世の中で普遍性があるのかは首をかしげる部分がある。けれど、江戸川競艇場のコレクションはお客様を楽しませたいという純粋なサービス精神にあふれ、なにより本当に気に入ったモノだけを収集しているという姿勢が観る者に伝わってくる。東京など都心部ではアートが年々市民権を得るがごとく様々な場所に露出されているが、「アートを解らせよう」といった押し付けがましい姿も多く見られる中、ここでは「アートで楽しんでもらいたい」という本来の姿を教えて頂いた気がした。近々、ハズレ舟券を食べてしまうヤギの超精巧なロボットまで登場予定とか。いやぁ、すごい。  
 
 さてさて、場内のアートや展示物も見終え、実を言うと早く競艇が観たくて仕方なかった自分。いよいよ一般席最前列へ。なんと江戸川競艇場は全国24競艇場の中で一級河川を使用してレースを行う唯一の競艇場とのこと。面白いのが、途中材木を運ぶようなタンカーが来るとそれを優先し、競走水面をタンカーが悠然と通り過ぎて行くのだ。そんなだから初めて観る者には目の前に普通の河川があるだけで、「ほんとに此処でこれからレースが始まるの?」といった感じ。けれどしばらくするとアナウンスが流れ、6艇のボートが登場するやいなや手際よくレースが始まった。スタート地点からあっ!という間に目の前を駆け抜けるボートの群れ。燃料の焼ける匂いが漂い、お腹に響く心地よいエンジン音。「そうか! 競艇もモータースポーツなんだ!」とあらためて気付かされる。いやぁ、その迫力たるや「水上の格闘技」と呼ばれるのもうなずける。

 これは生で観るべきだなぁ。興奮冷めやらぬまま、次は特別観覧席に案内して頂き、今度は眺めの良い上からの視点で観戦。けれど、なんたってギャンブルは眺めているだけじゃあ醍醐味は分かるまい。


 
ということで案内頂いた女性に、即席競艇指南をしてもらいイザ!  
 
ん、結果?

…………。

競艇とは実に奥の深いものである。
(2007.10.22 おおもり・あきお/彫刻家)
 

江戸川競艇オフィシャルサイト
http://www.edogawa-kyotei.co.jp/
江戸川競艇アートミュージアム
http://www.edogawa-art.jp/
江戸川競艇アートツアー
http://www.edogawa-art.jp/contactus/index.html
お時間あれば是非足を運んでみて下さい。かなり楽しめますよ!