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番外編


 学生時代は本屋が大好きで、大きな書店で長い時間を過ごした。文学部でドイツ観念論などを勉強している青くさい哲学青年だったからだ。肝心の勉強は、カントもヘーゲルも核となるところ、キモとなる部分を理解する頭脳を持てず、なんて頭が悪いのだろう、と自分でもあきれるほどだった。ぼくには哲学研究の壁はとても高く、しかも厚かった。

 そのせいか、今でも、はじめての哲学とか、よくわかる哲学、みたいな本を見つけるとすぐに買ってしまう。結局「積ん読」になるのだが、今でも哲学の諸問題を理解したいと思っている。一種のトラウマになっているみたいだ。

 二十数年前は、小説も評論も結構たくさん読んだ。背丈ほどある本棚を二つほど買い増したように記憶している。雑誌も勢いがあったころで、創刊されるタイトルも多く、当時ぼくはせっせと創刊号をコレクションしていた。

 最近は書店に出かけることそのものが減ってしまった。ぼくもまたネット書籍通販の利用者であるからだ。基本的に本やCDを買うのは趣味ともいえるので、店舗に出向かず深夜にほろ酔いでも買い物が出来るのはうれしい限り。ついつい買いすぎてしまう傾向があるのは、きっとどなたも同じと思う。

 しかし、書店も書店で、がんばっている。出版社も出版社で、やはり命運をかけてがんばっている。本屋とは、そのがんばりどころを一同に見ることの出来る場所ともいえよう。先日、京都のがんばっている老舗が四条烏丸のビルに新しく支店をオープンしたというので少し覗いてみた。

 本屋というのは、基本的に本棚に本が並び、ところどころに平積みされた雑誌や新刊書が見られ、レジのあるカウンターに店員さんがいる、というものであるが、インテリアなのか店内表示なのかディスプレイのノウハウなのか、理由はさまざまであるにせよ、書店は同じようであっても意外に居心地の違いが大きい。この支店もやはり新しいこともあって、現代的できれいで、しかも楽しかった。

 入口に、書店お薦めのディスプレイがある。四条烏丸は京都のビジネス街なので、経済や今の日本を切り出した本が多く並ぶ。タイトルからして興味をそそるものばかり。その中に、いままさに旬の勝間和代さんのコーナーがあった。ぼくはすでに少ない数ながら勝間さんの本を読んでいたが、未読のものを手に取ってみた。勝間さんは、きっぱりとしたところが心地いい。今回ぼくが手にしたのは『起きていることはすべて正しい』(ダイヤモンド社)という2008年11月初版の書籍。文章にも勢いがあって、主張にぶれがないからか、読んでいても淀みなくページが進む。

 その中で、「セレンディピティ」なる言葉が出てきた。偶然力、幸福を実力にかえる力、と紹介されていたが、聞き慣れない言葉なので調べてみたら、この言葉は、本来、偶然起こったことを自分にとってのプラス要素にすることが出来る力、という意味だそうだ。


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プロフィール

日比野 実(ひびの・みのる)
書家
1960年京都市生まれ、同志社大学文学部卒業、
幼少より、書を祖父・日比野五鳳に学ぶ。
現在・日展出品委嘱、読売書法会常任理事、日本書芸院常務理事
大学非常勤講師(京都大学ほか)、水穂会副会長




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