最近、乾千恵さんの書による絵本『月人石』(文・谷川俊太郎、写真・川島敏生、福音館書店・こどものとも傑作集)を見ていたく感激したばかりだが、この中にじつに泰然とした「山」字があった。こうした魅力的な書に接すると、たとえば書家を起用するなど、スイス館には演出にもうひと工夫欲しかったと思う。
ほかには同じ漢字文化圏にある中国館と韓国館に入ってみた。中国館では甲骨文字や活字印刷に関する解説があったが、展示自体は通り一遍に感じた。韓国館は中国館よりは丁寧な展示で、たとえば韓紙のいろいろな用途の紹介には好感が持てた。
来たる未来のイメージ賛歌が万博の基本的なありかたであるが、数こそ少ないとはいえ、伝統文化への理解に基づいた書がいくつか見られたことを評価したい。
さて、万博会場以外ではあるが、万博に合わせて開かれた美術展で、現代美術家によるほのぼのとした文字(硬筆)に癒されたことにぜひ触れたい。豊田市美術館でのヤノベケンジさんの個展「キンダガルテン」会場に掲示されていた自筆のメッセージがそれ。全長七・五メートルの巨大ロボットを中心とする、時代への批判精神と遊び心あふれる発表であり、子どもたちに宇宙との深いつながりを、じつにおおらかな運びで問いかけている。伸びやかさが際だち、気持ちがひとりでにほぐれた。
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