高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
文字のいずまい
vol.10

愛知万博に見る書表現
臼田捷治(デザインジャーナリスト)
  誌前号でも報道されているように、愛知万博が現在盛況裡に開催中である。来場者は増加の一途と新聞は伝えている。また、同じく前号では九月に万博会場内で併催される「世界のsho・日本の書」展の展示作品の一部が紹介されている。漢字文化圏にある東アジアで開かれる万博にふさわしい好個の企画。関係者の尽力になによりも感謝したい。
 も梅雨時の七月初めに万博会場を訪れた。書や文字がどのように扱われ、遇されているのか見て回ることが目的であった。一日だけの駆け足取材。見落としたパビリオンの数のほうがもちろんはるかに多い。限定付きの報告であることをあらかじめお断りしておきたい。
 は前夜、豊田市内のホテルに泊り、翌朝早起きして七時四十分ごろには北ゲート前の広場に着いたのであるが、開門は九時なのにすでに千人は優に超える人たちが並んでいて、過熱ぶりに改めてびっくりした。開門と同時に、人気集中のトヨタグループ館とか日立グループ館、三井・東芝館のある企業ゾーンに向かう人たちが圧倒的に多い。幸いにもグローバル・ハウスに向かう人は意外に少なく、整理券が難なくもらえてすぐに入場できた。

一ノ瀬芳翠書・近藤典親染色による垂れ幕
「天の川」(愛知万博・バイオラング)


スイス館表看板の「山」字(愛知万博)

  がグローバル・ハウスを優先して選んだのは、本万博の目玉である冷凍マンモスもさることながら、その中のブースの題字を、独自の活動を続けている弱冠二十九歳の書道家、武田双雲さんが揮毫しているとの新聞報道に接したからだった。
 ローバル・ハウスはオレンジホールとブルーホールの二つに分かれていて、同時に二つを見ることはできず、どちらか一つにしか入場できないことは知っていたが、私がその時間帯に入れたブルーホールではなぜか武田さんの書を発見できないままだった。すっかり意気消沈してしまい、最後にマンモスを見て出口を通っても心晴れないまま。係員に質すと、書が見えるのはもう一つのオレンジホールのほうだという。やむなくなくオレンジホールの整理券をもらったが、入場できたのは一時間も後のことであった。
 レンジホールは、人類と環境とのかかわりを探る最先端の研究を六つのステージで構成している。そのブースの題字として書かれた武田さんの書は「歩」「抗」「楽」「挑」「拡」「環」の六字。各ブースのテーマに寄り添って、多彩なスタイルで自在に書き分ける力量はさすがである。なかでも、私は現代性あふれる図案風の「拡」字に魅了された(ただし、館内撮影禁止のためここで紹介できないのは残念である)。
 いでにいうと、展示品中にはレプリカながら、昨年中国で発見されて話題の遣唐使留学生「井真成墓誌」があったことを付記したい。
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