山本タカト 幻色のぞき窓
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高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
文人閑居して文字に遊ぶ

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今月の写真
舞踏家・大野慶人さんが人形をあやつる…? この人形は、メキシコの弟子・ディエゴさんの教え子が、大野一雄さん(慶人さんの父、舞踏家)を慕って作ったもの。大野一雄さんの雰囲気がよく出ています(大野一雄舞踏研究所の稽古場にて)。
イントロ 11月から暮れにかけて、緊張感の連続で描いた絵仕事に没頭していたので、それが終わったとたんにドッと力が抜けた。次には脱力感が私を支配。「ソロモン流」見たよ、良かったヨ…の激励メールに返事を書くのもおっくうなほど。(メールを出してくれた皆さん、ごめんなさい…)そんな空虚な年末年始を変えてくれる物に出会いました。


イントロ 大晦日「王子・狐の行列」を見に行った。歌川広重の浮世絵「王子装束ゑの木大晦日之狐火」にある幻想的な世界を再現したこの「狐の行列」は、15年ほど前に地元が中心になって立ち上げたイベントで、年々参加する人も増えているという。まちの一画には即席屋台村の「きつね村」まで出現して、暮れの王子のちょっとした風物詩として定着しつつあるようだ。 
 行列のスタート地点である装束稲荷神社の周辺には、夜も更けたというのに老若男女の狐たちでごったがえしていた。何せ行列の参加条件が、狐のメークかお面をかぶり、着物着用ときたもんだ。皆無邪気に白塗りの狐メークを施し慣れぬ着物を羽織りつつも、どこかワンポイントで自己主張をしているのが可愛い。数匹の狐の姿をカメラに収め、行列が通る大通りに向かう。
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 身の丈ほどの狐の大面や、提灯、お囃子、賑やかな白狐集団、籠に乗った稚児狐、さらには獅子舞までも繰り出して、さまざまな狐が笑顔で通る。そんな中、私の目の前をスーッと雰囲気の異なる1匹の狐が通っていった。狐メイクは他のだれよりも美しく狐らしい。そして、重量感のある大きな昇り旗を支え持ちながら、
正面を見据える 目線はたじろぐことなく、姿勢に軸があり、これまた美しい。思わずシャッターを切り、カメラを構えながらその狐に話を聞く(どうも商売柄、取材というか気になる事をすぐに聞く習性がある私)。
 その狐の名は橋本まつりさん。参加のきっかけは「自分が育った王子に少しでも役に立ちたい」と。お若いのに殊勝な心がけじゃありませんか。役者さんかと思いきや「ダンサーです」。しかも、かの有名な大駱駝艦のメンバー! えっ、ご存じない? スキンヘッドで全身白塗りでと言えば「あぁ…」とイメージできるでしょ。数多くの狐の中から橋本狐に目をつけた自分を、少し自慢げに思った。目をつけたというより、橋本さんが発する独特な“気”に気づいたからであろう。
 文頭で、このイベントが広重の絵にある幻想的な世界を再現したと書いたが、広重の絵にあるのは“闇”と、そこでうごめく狐たちの“静”の世界だ。橋本狐は、この浮世絵さながらの空気感を持っていた。広重の絵が好きな私としては、橋本さんのような狐がもっと増えて、“闇”と “静”の狐の世界をより濃く再現してくれたらなぁと思った。そして、橋本さんがこの行列をコーディネイトしたら、どんな仕上がりになるのかなぁ〜なんて、余計な想像をしながら王子をあとにした。
※大駱駝艦 http://www.dairakudakan.com/
※王子・狐の行列 http://ouji-kitsune.jp/


「狐の行列」を見た翌日、知り合いに誘われて舞踏家の大野一雄・慶人よしと さん宅を訪れた。先にスキンヘッドで白塗りと書いたが、その手の踊りを“舞踏”という( ※全ての舞踏家がスキンヘッドで白塗りではないけれど)。
img大野一雄さんは100歳を超える長老で、息子の慶人さんも著名な舞踏家。かつてお二人の舞台を何度か拝見した私としては、雲上人に会うことを許された平民のごとく、神妙な面持ちで横浜の丘の上に建つ大野家へと向かった。ご自宅の玄関先は舞踏のイメージとはかけ離れて普通…と思ったとたん、
imgimgポストの上で寝そべっていた猫が突然に舞踏ポーズ(?)で我々を歓迎。さすが、舞踏家の家で飼われている猫は違う!
 まずは大野一雄さんに新年のご挨拶。ベッドに横たわる102歳の大野さんは、肌の色ツヤもよく髪も黒々としている。この大野さんを、ヘルパー2級講座を受けた4〜5名のお弟子さんたちが交代で、24時間体制のお世話をしているという。ご家族やお弟子さんたちが見守る大野一雄という名の命に、心の中で挨拶をさせていただいた。
 しばし歓談後、ご自宅から隣の稽古場(大野一雄舞踏研究所)に場所を移す。多くの舞踏家、芸術家、お弟子さんたちが研究を重ね、作品を生み出してきた場だ。モノづくりの空間にはいともいわれぬ心地良い空気が漂う。
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 慶人さんが大野一雄人形を使ったパフォーマンスを披露してくださった。演ずる慶人さんを私が最後に観てから、もう10年以上も経つだろうか。慶人さんの涼しげな目元は変わらない。久しぶりに観る舞踏の動きに、何となく気持ちが落ち着いた。この数年、忘れていた感覚が呼び戻された気がした。“魂の揺さぶり”だ。
 ずいぶん前に、ピナ・バウシュだとかイスラエルのバットシェバ舞踏団、そして北欧やアメリカのコンテンポラリー・ダンスを観ていた時期がある。舞踏もその頃に観たが、いずれも衝撃的だったり面白かったり。シュールな身体表現や舞台芸術に見入り、音楽に聞き入った。魂に訴えるモノだった。感動もあるが、映画を観たり本を読んでの感動とは何か違う。やはり“魂”を揺さぶる、または“魂”が共鳴するとでもいうのかナ。今更ながら「もっと観なくちゃ」と少し反省。年明けにいいモノを拝見させていただき、慶人さんに感謝です。

 よく「舞踏って何? どうやって観ればいいの?」と言う人がいる。舞踏が何かは私もよく知らない。日本で生まれた独自の前衛的なダンス様式で、海外での評価が高く“BUTOH”と呼ばれ、日本へは逆輸入で認知されたとか、歴史は50年ほどだとか…。でも、理屈はあとネ。まずは感じること、面白がること。私のまち歩きの心得と同じです。技術や知識はあとからついて来ます。以前に、まち歩きツアーで歌舞伎鑑賞をやり、昨年は浅草演芸ホールを皆で観に行った。たまには目先を変えて舞踏ツアーなんてのもいいかもネ。凝り固まったあなたの脳みそと魂を解放してあげましょう〜 
※大野一雄舞踏研究所 http://www.kazuoohnodancestudio.com/



 今回は年末年始にかけて撮った写真から選んだ、数点の絵をご覧いただきます。

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い
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ろ
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は
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に
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二重人格風景編

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左は11月の「見逃すな注目編」で載せた写真ですが、同じ場所の冬の景色も気になって撮ってきました。キャベツが雪に埋もれて、夕日が寂しげな色合い。中央の木は、どうも人にみえてしまいます。この木も舞踏してポージングしてるようで…。
(長野県・小布施町)
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左はよく見ると、時計と時刻表の時間が合っていません。時計が壊れているのではなく、右の写真、赤い文字を読んでみて下さい。暮れに29日、上野駅から9:26発の新幹線に乗ろうとしたら、システムトラブルが原因で、6:22発の電車がまだ来ていなかったのです。3時間以上の遅れ。これも文明の利器。
(東京都・上野駅)
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プロフィール
  プロフィール

高橋美江(絵地図師・散歩屋)


1953年生まれ。東京都出身。生粋の江戸っ子。武蔵野美術大学卒業。高橋デザイン室主宰。東京観光専門学校・儀礼デザイン講師。グラフィックデザイナー、イラストレーターの枠を超え、行政や企業のイベント、商品企画をも手がける異色派。絵地図師として、全国200ヶ所以上の絵地図を制作、その取材で得た経験をもとに、NHK文化センターでまち歩きの講座を3クラス持つ散歩屋でもある。専門は、まちの「ハレ」と「ケ」を見つめる『お散歩民俗学』。

公式サイト: 美江さんサイト http://www.miesan.jp/


【TV出演情報】
NHK 総合「こんにちは いっと6 けん」11:05AM〜 
美江さんの『とっておき東京便』美江さんの散歩コーナー
※次回放送日は1月26日(月)。干支の牛に関係した所を散歩します。
※2月の放送日は2月4日(水)の予定です。
http://www.nhk.or.jp/shutoken/6ken/

【まち歩き講座】
NHK文化センター青山教室、横浜ランドマーク教室で講座を開催しています。
●青山教室「人・まち・味の出会い旅」
http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_442724.html
●横浜教室
「東京下町小さな旅-1」
http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_440651.html
「東京下町小さな旅-2」
http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_440650.html