畢生(ひっせい)の作とは本書のことをいうのではなかろうか。このほど武蔵野書院から刊行された『會津八一題簽(だいせん)録』がそれ。秋艸道人八一(1881-1956)が手がけた145点にも及ぶ揮毫書籍・雑誌を写真と解説を付して収めた一大集成である。
著者は高橋文彦氏であり、編者は財前謙氏。高橋氏は、會津八一の高弟で金石文や近世仏足石碑文の研究によって知られる加藤諄氏(2002年歿)の指導を早稲田大学法学部在学中から受けた後、高校教諭のかたわら、師のアドバイスを受けつつ八一が手がけた題簽の収集と研究に30年余を捧げてきた(本書収録作品の九割は氏のコレクション)。財前氏は早大教育学部出身の無所属の書家であり、敬愛する八一が収集した拓本などについて、同じく加藤氏から折に触れて教示を受けてきた。高校教諭生活を経て、現在は大東文化大学書道研究所客員研究員として書史書論などの研究に当っている。最近では、仏典漢訳者として知られる鳩摩羅什(くまらじゅう)を紹介したNHKスペシャル「新シルクロード」第5回(2005年5月)の揮毫場面の映像において「色即是空」「煩悩是道場」などの書を担当して話題を集めた。タイトル「新」の篆刻も氏の作品である。
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