高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
文字のいずまい
vol.8

書字がことほぐ「包む」文化
臼田捷治(デザインジャーナリスト)
 好きの人間にとっては通い慣れた近所の書店も悪くはないが、見知らぬ土地で初めて訪ねる店も心ときめく。書店という小宇宙にはその街固有の文化の香りが凝縮されているように思えるからだ。
 国に旅をしたときも同様である。私はなるべく行く先々で書店を覗くようにしているが、書店はその国や都市の文化度のバロメーターになっているように感じられる。まことに乏しい体験にもとづく管見にすぎないが、イギリスのロンドンやオックスフォード、ドイツの諸都市の活況ぶりが脳裏に焼きついている。とりわけドイツは、日本のように出版が東京への一極集中ではなく、どの都市にも出版社があって個性ある出版活動が繰り広げられているというように、書物を支える土壌が格別充実している背景を見逃すことができない。
 だし、旅先で書物を買い求めると困るのが、本の重さである。文庫本程度ならまだしも、ハードカバー本となるとズシリと肩にきて、旅を続けるのに負担となる。だから、極力、旅先では買わないようにブレーキをかけがちである。
藤枝市・江崎書店のカバー。
同市在住の作家、小川国夫の端正な筆遣いが深い印象を刻む。
  ころが、未知の土地に積極的に出かけ、片っ端から書店行脚を続けているグループがいることを知って驚いた。しかも、このグループのお目当ては、購入時に書店がかけてくれるその店独自のカバーの収集なのだという。
 しかに日本の書店の独特のサービスに、カバー掛けがある。読者にとっては、外国の書店では味わえない特典。独自の紙製カバーを持たず、ビニール製などの袋に入れるだけの書店も一部あるけれども、大半の書店は購入時にカバー掛けを希望するかどうかと尋ねてくる。そして、掛けてもらったときに、そのカバーが美しいものであればなおのこと得をした気分になる。
 記の書店カバー収集を趣味とするグループ名は「書皮友好協会」。一九八三年の発足だという。なお、「書皮」とは聞きなれないことばであるが、漢和辞典に「書物の表紙」の意として載っているれっきとした日本語のようだ。出版社が最初から付けている「カバー(ジャケット)」と区別するための命名の由。そして、その協会会員が選んだ百九十一点の書店カバーを収録した、その名も『「カバー、おかけしますか?」』が出版ニュース社から昨年(二〇〇四)末に刊行されて評判になっている。
 去二十年にわたる優秀作品「書皮大賞」二十点をはじめとして、その他の作品が「干支」「植物いろいろ」「木版画」「文字」など三十四のジャンル別に分けられて収録されている。古書店のカバーが入っているのもうれしい。このなかで、書字ファンとしては、前記したジャンルである「文字」を筆頭に、どうしても文字を主体にデザインされたカバーに目が吸い寄せられる。
 
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