本好きの人間にとっては通い慣れた近所の書店も悪くはないが、見知らぬ土地で初めて訪ねる店も心ときめく。書店という小宇宙にはその街固有の文化の香りが凝縮されているように思えるからだ。
外国に旅をしたときも同様である。私はなるべく行く先々で書店を覗くようにしているが、書店はその国や都市の文化度のバロメーターになっているように感じられる。まことに乏しい体験にもとづく管見にすぎないが、イギリスのロンドンやオックスフォード、ドイツの諸都市の活況ぶりが脳裏に焼きついている。とりわけドイツは、日本のように出版が東京への一極集中ではなく、どの都市にも出版社があって個性ある出版活動が繰り広げられているというように、書物を支える土壌が格別充実している背景を見逃すことができない。
ただし、旅先で書物を買い求めると困るのが、本の重さである。文庫本程度ならまだしも、ハードカバー本となるとズシリと肩にきて、旅を続けるのに負担となる。だから、極力、旅先では買わないようにブレーキをかけがちである。 |