書字の訓練やその独自の所作と芸術一般との結びつきについては、あまり具体的に論じられることはないけれども、意外に深いものがあるのではないだろか。
たとえば昨年の二月に台湾のクラウド・ゲイト舞踊団が初来日して行った東京公演がそうだった。同団は書や気功など東アジア固有の伝統的な身体所作を現代感覚あふれるモダン・ダンスとして繰り広げ、欧米を中心に高い評価を得ている。
私は公演プログラムのひとつ「行草」を観た。タイトルどおりに書の空間性やリズムを取り入れている。芸術監督で同舞踊団の創設者林懐民はダンサーに一年余にわたって書の訓練をしてもらったということだが、行書や草書に特有の流麗優美な筆路を、あたかもツバメの変幻自在な飛翔のような、立体感ある身体の躍動美によって表現していた。「雁塔聖教序」ほかの名跡が次々と映し出される舞台美術との相乗効果ともあいまって、じつに刺激的な舞台だった。「行草」は現代の先端をゆく振り付けであったが、伝統芸の世界となると書字がもつ身体感覚との距離がぐっと縮まる。 |