独特のインクのにおいとざらざらとした紙の触感……。近代日本の文化を支え、「ガリ版」の愛称で親しまれてきた謄写版(孔版印刷の一種)印刷。その軌跡を振り返る「本の街のガリ版展 一八九四〜二〇〇四」が、さる十月十三日から十九日まで神田小川町にある東京古書会館で開かれた(主催・ガリ版ネットワーク)。堀井新治郎親子によって、一八九四年に神田鍛冶町において謄写版が生誕してから百十年の節目を迎えたことを記念する催し。「神田という学校と本の街は、謄写印刷を育てた街ともいえる」という趣旨に沿って、同じ神田が展示会場に選ばれた。
明治、大正、昭和と各時代につくられてきた印刷物や美術作品の展示にくわえ、「現代に生きる謄写版」としてラオスやモンゴルの教育現場で活用さている現況報告や、愛好者による実演が行われた。会場には、かつて謄写印刷に親しんだ中高年世代にとどまらず、デジタル・テクノロジーにたっぷりつかっている若い人たちの姿も目につき、世代を超える関心の高さがうかがえた。
ガリ版を経験したことのある世代は何歳ぐらいまでであろうか? 二十代後半ぐらいの人なら、実際に制作に関わらなかったとしても、その印刷物を手にして見たという人がわずかながらいるのではないだろうか。 |