その書体で組まれた文章に初めて接したとき、私は驚いた。なんと愛らしい表情をしているんだろー、と。端正ではあるけれど、少しも堅苦しくなくて、心和むのである。とくに丸っこい線質に、いわく言いがたい味わいがある。整合性を高めはしたが、どれも似たり寄ったりの書体が少なくないなかで、この新書体の存在感は際立っていた。
金属活字の時代は活字の膨大なストックが要求されたが、写真植字システムへの移行にともなって、ひとつの書体を整えるのに文字盤一枚で済むようになったことから、新しい書体(タイプフェイス)の開発が一九七〇年ごろから一挙に盛んになった。それはデジタル・テクノロジーが浸透した現在も変わりない。そうした趨勢のなか、私はこれまで三十余年にわたっていくつもの新書体の登場を目撃してきたが、こんな新鮮な経験はそうあるものではない。
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