前回の予告通り、季節がら、クリを使った洋菓子のクイーン、モンブランでいこう。モンブランって、けっこう来るでしょう、ボティに。たっぷりと美味しいモンブランほど食べたあとは、すぐに動くのが嫌になったりする。しかも空きっ腹には禁物だ。ちゃんとした食事がとれなくなる。

 ということで、モンブランを食べるタイミングって、けっこう微妙なんです。床屋に行く状況設定と同様。

 ──と、モンブラン登頂の前に、そうだ、訂正とおわび。銀座・西五番街、ピエール・マルコリーニの隣りのショコラブティック「HIRSINGER・イルサンジェー」を、ぼくは「鹿が笑う」と書きましたが、これは「鹿が歌う」ということのようでした。もうひとつ。銀座「シェリークラブ」のシェリーの品揃えを「ギネスブック級」などと書きましたが、「級」どころではなく、まさに世界一、「ギネスブック」認定とのこと。ご指摘ありがとうございました。今後もよろしく(って、甘えちゃいけませんね)。

 で、モンブランだ。まずは、ゴージャスな外観と地下のカフェ、これぞスイーツの殿堂の称号にふさわしい「HENRI CHARPENTIER(アンリ・シャルパンティエ)」のモンブランをめざそう。

◉ブルガリの不気味カワイイ壁面デコをながめながら、めざすは──
◉ここ、「アンリ・シャルパンティエ」の格調ある入口。この建物自体がもうお値打ち。
 とはいうものの、こういう華やかな空間に我れヘーベンレッケン大佐(この称号の由来は、いつか、っていうか、すぐわかりますよね)ひとりでは心細い、周りから見ても場違い感がありすぎだろう。私、天秤座なので、なにより調和とバランスを気にする。

 そこで動員をかけた。1人は、当ブログのオーナーにして、中高年の星・ハンサムフットボーラーA社長、と、もう1人は神保町の蘭の花的麗花Kちゃん。夕方4時半、銀座ソニービルの1階で待ち合わせ。夕方、OLの会社退け時間まえに、スイーツ店の席に座ろうという作戦。

 待ち合わせは4時半だけれども、こちらがお忙しいお2人をお誘いした手前、多少の段取りぐらいつけておこう、と、1時間ほど前に銀座に到着。とりあえず「アンリ・シャルパンティエ」をめざす。店の外観を、暗くならないうちにデジカメにおさめておこうというつもりもある。

 途中、タルト菓子で大人気の「キルフェボン」の前を通る。クリスマスの飾り。メルヘンチックで幸福感でいっぱい。(こういう世界もあるんだなぁ)と、感じ入りながらブティックの左側のカフェの入口をのぞくと──なになに「30分」待ち!? まるで上野のゴッホ展とかヴィーナス展のノリですね。

◉「キルフェボン」のウインドウ・クリスマス飾り。夢がありますね。
◉「キルフェボン」の入口。ケーキブティックに入るときのワクワク感が演出されています。
(ん!? とすると「アンリ・シャルパンティエ」も?)と急ぎ足で。ありゃありゃ、地下に降りる階段の横のスツールに6〜7人、女性が座っている。

 係りの女性に30分後に3名で来るけど予約を、と頼むと「基本的にご予約は受け付けておりません」と。続けて、「でも、いらしたときに私にお申し付け下さい」と言ってくれたので、名を告げて待ち合わせ場所へ。

 じつは、この日のヘーベンレッケン大佐は、この動きだけで、もうヘロヘロ。

 思い起こせば……昨日は夕方の5時に、神楽坂に隠居部屋を持つ作家のA旦那と、坂の途中の中華の名店「龍公亭」で、ここのマダムを交えての打ち合わせ。

 文人肌、龍公亭女主人の肝入りで、坂上の茶店「パレアナ」で、「神楽坂と鏡泉花」の展示を催すという。で、A旦那が「あんたも神楽坂には、いろいろお世話になっているのだから協力してね」という命が下ったので、馳せ参じた次第。

 じつは、この日、夕方6時から、ある会合の例会があったのだが、会の隊長にドタキャン通告。A旦那のお声がかり、セクシーな女主人からのご相談とあっては、どちらを優先するかは自明なり。

 龍公亭の美味なる前菜をつまみに、紹興酒を舌と脳の潤滑油としながら、あれこれ作戦会議。

 ふと、向うのテーブルを見ると神楽坂の売れっ子芸妓のCさんがお客さんとお食事。相手の男性がた、どういう身分なんでしょう。夕方の5時前から「龍公亭」でご歓談なんて。ま、いいか。

 こちらは、打ち合わせが一段落着いたので、A旦那と2人で鏡花通りを上って熱海湯の少し先、「粋な店だよこのトキオカは時を置かずにまた来たくなる」(都々逸です)「トキオカ通えば気分が晴れる音と料理の隠し味」(折り込み都々逸です)の「トキオカ」へ。  準イケメン、マスターのTさんと、女房、いや相棒のKさんのおふたりに年の暮れの挨拶かたがた、A旦那と改めてビールで乾杯! その、すぐ後に日本を代表するTVプロダクションの代表、カルト・O氏乱入。(このあと神保町の麗花ちゃんのお店に移動してからのO氏他とのやりとりは、めんどくさいから略)

 で、なぜかそのあと、その神保町は大久保通りに面したイタリアン「H」へ。しかも、日が変わって、もう深夜の3時じゃん。

「ひさしぶりー」と店に入ると、ア、ラ、ラ、ラ!? そこには、またしても、夕方会った売れっ奴芸者さんのCさんがお客さんらしき人たちと! さすが、看板にいつわりなし! 夕方の5時から深夜の3時まで、売れ奴しつづけてきたのでした。指折り数えれば、5時から3時まで。丸々10時間じゃないですか! って、こちらも10時間飲んでいたわけか。

 その日の始まりにゴージャス芸妓さんCさんと会って(このとき、Cさんは嬉しくも、こちらの席まで挨拶に来てくれました)、深夜の3時に、またCさんと出会う。端と端をCさんに押さえられ、これがオセロゲームだったら、その間は、クルッとすべてCさんの駒になってしまう。

 なんて妙なことを考えている場合じゃなく、そんな訳で、ソニービルでの待ち合わせ、スイーツ取材がヘロヘロであることの言い訳を、るるのべさせていただいた次第であります。

◉「アンリ・シャルパンティエ」の1階フロアの入口。オシャレですね。
 で、本題の「アンリ・シャルパンティエ」。お二人と合流、お店に入ると、やはり階段の横のスツールに女性一組の客が。しかも、かなりの間、待っていらっしゃる風情。しかし、先ほどぼくに接してくれた女性が、ぼくたちを優先的に席に案内してくれる。スツールの客は、このあしらいにけげんな表情。それを軽く無視しつつ席に向かう。こっちは、あらかじめ段取りをつけてあるんだもんね。

◉「アンリ・シャルパンティエ」の店内に飾られているケーキの型枠。
 着席。メニューを見て、ボクは予定どおり、当然、モンブラン。そうそう、このモンブランも、先ほど来たときにケースに2つしか残ってなかったのでリザーブしておいたのだ。で、麗花さんもモンブラン。A社長は、マロンのチョコレートタルト。

 ここで「アンリ・シャルパンティエ」さんに注文。ぼくはケーキにワインかスパークリングが好き。本来ならばケーキにはティーなのでしょうが、酒で喉をしめらせながらケーキが食べたいのだ。メニューを見るとヴァンムスーとシャンパンが。支払いは社長がしてくれそうな気配がしたので、値段が約三分の二のヴァンムスーにする。

 ところが「切らしてます」とのこと。「えっ、て、ことは、このシャンパンしかないの?」「すみません、さようでございます」って、ヴァンムスーぐらい、いくらでもあるでしょうに。多少、銘柄が違ったって、同じ値段ぐらいのものは。

 下町・場末育ちのぼくなどは、こういうケースのときはすぐに、(客に高いほうを注文させようとしているな)と邪推するのである。店の方の実情は無視して。だから、お願いです。メニューに載っているものは用意しておいて下さい。なければ、それにふさわしいリリーフを。

 もう一つ。オーダーしてから出てくるのに、あまりに時間がかかりすぎる。吉野家や松屋だったら、注文してからビール1本と牛丼をとうに食べ終わっている時間だ。高級洋菓子店のモンブランと、テナント牛丼屋さんの時間を比較する方がナンセンスなのは百も承知ですが。

 で、待ちに待ったるモンブランがしずしずと登場。マロンペーストがまるで大柄なオランダの女性のうしろ髪(?)のようにボリュームがあって可愛い。ルネ・マグリットの作品にもあったなぁ、こんな後ろ髪の絵。ま、見ようによっては、マロンによる手打ち蕎麦ともいえるけど。

◉これが「アンリ・シャルパンティエ」のモンブラン。ちょっとソバージュな女性の後ろ髪にも見えるの。
 隣りの麗花ちゃんの皿を見るとモンブランの回りにクリームやチョコレート(?)で飾られた模様が、ぼくのとは違う。さすがですね。

 味は? 申し分なし。

 って、もっとくわしく説明せよ、と言いたいでしょう。もし、興味があったら、ご自分で確かめてください。このコラムでは、味に対する文飾はなるべく控える方針なので。というか、そういう文才がないから──にきまってます(と開き直る)。

◉ケーキの中にはラム酒(?)漬けのマロンが。こう書いていたら、また食べたくなってきた。
 このモンブラン578円。味やお店のゴージャス感からいって、この値段は高いとは感じない。シャンパンは1500円ちょっとだったか。ぼくは1000円ほどのヴァンムスーでよかったんだけど…(って、しつこいね)。

「アンリ・シャルパンティエ」のケーキを堪能して元気の出たヘーベンレッケン大佐一行は、もうちょっとワインが飲みたくなり、近くの「オザミ・デ・ヴァン」へ。この店は、日本のワインブームの火付け役の名店として、ワイン好きには、よく知られた店。

 6時ちょうどの開店早々、予約はしてなかったのだが「このあと予定があるので、ワインをちょっと飲んですぐ出るから」と、少々強引に店員さんに告げると、OK、で二階のテーブルへ。

 ボジョレー・ヌーボー3本の中から1本を選ぶ。つまみは、チーズ盛り合わせとフォアグラのペースト、とパン。ワインとつまみの相性バッチシ!

 麗花Cちゃんは次の仕事の時間を気にしつつも、しっかり、ボトルが空くまで一緒にいてくれました。で、彼女が退席のあと、残されたA社長と私・ヘーベンレッケン大佐はタングルウッドのグラスワインを注文。銀座の夕暮れの余韻を楽しんだのでした。

 ところで、モンブランだ。この5日後の昼下がり、再度、銀座・人気店のモンブランに会いにゆく。そして、たっぷりと濃厚なケーキを賞味したすぐあと、1時間を待たずして、これまた香ばしいボリュームたっぷりのタルトマロンを味わうことになるとは! この、タフなことの成り行きは次回で。


(第6回おわり)

著者プロフィール

坂崎重盛(さかざき しげもり)

東京生まれ。千葉大学造園学科で造園学と風景計画を専攻。卒業後、横浜市計画局に勤務。退職後、編集者、随文家に。著書に、『超隠居術』、『蒐集する猿』、『東京本遊覧記』『東京読書』、『「秘めごと」礼賛』、『一葉からはじめる東京町歩き』、『TOKYO老舗・古町・お忍び散歩』、『東京下町おもかげ散歩』、『東京煮込み横丁評判記』、『神保町「二階世界」巡リ及ビ其ノ他』および弊社より刊行の『「絵のある」岩波文庫への招待』、『粋人粋筆探訪』などがあるが、これらすべて、町歩きと本(もちろん古本も)集めの日々の結実である。