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 これで本作りも終わるつもりだった。だが一年もしないうちに、さらに印影が増え続け、すぐに第2集を作ろうと思い立った。表紙は、タイトルの筆書きと印影を組み合わせた。中身のほうも、絵と自分の作った言葉を入れる程度で、あとは印影を並べるだけのものだった。本来、中国の伝統的な印譜集はコメントは入っていない。

 そんな時、『銀花』という雑誌に載ることになった、印影がたくさん。それを見たからかどうかはすっかり忘れてしまったが、大きな広告代理店から注文が舞い込んだ。注文された代理店の初老の女性は実力者らしく、当時の大阪の万博でのファッションショーや催しを大成功させた有名人らしい。品があり態度も言葉遣いもファーストレディ風で、落ち着いていて応対も気持ちがよかった。
 その人は単刀直入に「実はアメリカのロックフェラー財団の娘さん夫妻(娘さんといっても、歳は50代だろうか。……何代目かは忘れました)を日本へお招きする為にアメリカにお願いに行くのだが、そのお土産に夫妻の名前の印を彫って欲しい」ということだった。「文字はすべてお任せする。ただ日本らしく“桐箱”に入れてほしい。また出発は今日から3日後に出発したい」と静かに、驚くスケジュールを提示された。さて、2顆の印は徹夜してでも彫れるが、桐箱はどこで売っているのだろう?、印を入れるぴったりのサイズがあるのだろうか……私は困ってしまった。

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 やはり箱は特別に作らないと合わないだろう。私の友人で木のおもちゃを作っている若者がいる。彼を思い出して連絡をとり、桐箱を作ってくれる人はいないか聞いてみた。「3日間というのは型の切り出しから組み立て、糊の乾きまで、出来るのだろうか?」、私は質問を投げかけた。若い友人は話を聞いて「作っている人がいるので頼んでみましょう」と快く取り次いでくれた。箱作りの老職人は頼みを聞いて友人に言ったそうだ。「3日間とはきつい仕事だ。でもやってやれないことはない。」「ところで君はこの人に義理があるのか?」とたずねた。友人は「義理がある人だ」と答えたらしい。すると職人は「わかった、それなら間に合わせてあげよう」と引き受けてくれたのだった。2顆の印は何とか出来上がった。そして夜遅く桐箱を受け取る為に、大阪・新世界近くの裏街にある長屋へ赴く。人脈の広い友人への感謝を噛み締めながら、桐箱をしっかり抱いて帰った。(後日この職人とのやりとりを聞いて職人の心意気に涙した)。それから石を包む袱紗を妻が着物地で縫ってくれ、ようやく立派なお土産が出来上がり、無事アメリカへの出発日に間に合った。

 その後、受け取ったアメリカのロックフェラー夫妻の喜びの様子を聞いて、あわただしい3日間を思い、ふたたび嬉しさがこみあげてきた。

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  この一件があってから、これほど面白い貴重な体験をしたのだから、何かに書き残しておきたいと思った。次3の号からはただ印影を載せているだけではなく、注文のいきさつ、彫っている時の思い、受け取った人の声など、裏話を書いていこう。印は並べてあるのを眺めるのもいいが、一つひとつ注文の条件が違うし、思いやこだわりが入っている。それを読むだけで印影が違ったものに見えるだろう。それからの号には、こだわりやいきさつなど、短い文を記すことにした。
 ただここで「落とし穴」があった。私は記憶力が乏しいのだ。それは注文を受けると挑戦的になり、まっしぐらにアイディアを考え、彫った後、自分なりに満足して渡すのだが、渡してしまうとそのことを忘れてしまうのだ。それも“消えていく”というのが当たっている。我ながらおかしな性格だ。こうした短い文章作りは毎回大変な作業となった。記憶力との戦いでもある。でもこれで印譜集がより楽しいものになったはずだ。


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 こうしていろいろと思い出しながら各集を眺めていると、よくこれだけの種類を彫ってきたものだと、我ながら感心する。本来2年に一度出すつもりだったが、昔は1年に一度出しているときもあった。これも「次集はまだですか?」「待っています」と賀状や手紙の端に書いてくれるファンの声に勇気づけづけられて、続けられているような気もしている。
 普段、猫を抱きながら彫った印を、注文者に渡すと印影も残さず「ハイおしまい」となりがちな私の性格を思うと、自費出版本を作り続けることが日々の足跡を刻むことの動機付けに一役買っているように思える。それでも最近「この印は誰?」とか「なぜこんな印彫ったのだろう?」と思うことが多くなってきた。そして今回の最新集は、不覚にも4年ぶりになってしまった。これらも加齢のせいばかりではなく、昔からの性格の一部なのだからそれに囚われすぎることもなく、これからも気にもせず同じことを繰り返していくことだろう。image
 最新集にも登場する、私が敬愛する東京の漫画家が「中身はともかく、長く続いていることには感心するよ」と言われたのがうれしかった。そして「続けていくのも才能だ」としみじみ思うのだった。




そんな14集。
このブログを見ている人の注文を歓迎いたします。
そして面白かったから前の9集から13集まで欲しいという人を大歓迎いたします。

本屋で売っていませんからね(笑)

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