高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
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vol.26「ロサンゼルス」前編  

 このコラムでも紹介してきた通り、昨年、一昨年、一昨々年と三年続けてニューヨークへ行く機会があった[vol.7,vol.8,vol.9,vol.18,vol.19 参照]。昨年はハモンド・ミュージアム(Hammond Museum)での個展、一昨年はアジアン・コンテンポラリーアートフェア・ニューヨーク(ACAF NY)でのブース個展、そして一昨々年はそのフェアの下見。この仕事をしていればおのずと付いてくる事とはいえ、これほど頻繁に仕事で海外に行く事になるなんて、自分にとっては実にまさかの連続だった。

 しかしながら、世の中はこの通り先の見えない不況の只中。アートを取り巻く状況はなおさらの事で、ましてや輸送費がかさむ彫刻作品を海外で発表する事など、もうしばらくは無理だろうと思っていた。
   
 けれど、日ごと何が起きるかわからないのがこの仕事の醍醐味。この夏、代表作である大作二点がロサンゼルスの飲食店に嫁ぐ事になり、納品および設置のために自身初めて“L.A.”なる土地に行く事になった。
 案外自分、アメリカとは縁があるのかもしれない。

 という事で今回のコラムは、この夏の終わりのL.A.渡航記をお送りしたいと思います。

 

8月25日

 成田へ向かうスカイライナー。羽田と違い、成田は行くまでが面倒……と思っていたら、この夏「新型スカイライナー」が開業。成田まで36分という。いやぁ、ほんとにあっというま。下町に住む自分にとっては乗車する日暮里駅までもすぐだし、いやぁ便利便利。海外へのストレスもだいぶ違ってくるというもの。

 

 今回の旅は納品先のオーナーである安田さんとお母様、そして自分の三人。成田空港のラウンジで待ち合わせたのち搭乗。

 苦手な長時間のフライトもだいぶ時間の使い方に慣れてきたからなのか、今回はとても快適。機内食も美味しい。



 L.A.までは約10時間。着いたら即仕事が待っているので、観たい映画もそこそこに睡眠を優先。


 25日の夕方に成田を飛び立ち、時差を経て25日の昼前にL.A.到着。とりあえずホテルのチェックインだけ早々に済ませ、イザ納品設置先の飲食店へ直行。

 

 今回作品が納まるのは「Yakiniku Lounge TANGIER」さん。各テーブルでお客さん自らが網で焼く、いわゆるコリアン式の焼肉屋さんだ。しかしながらサービス大国のアメリカでは、お金を払って自分で肉を焼くというシステムがなかなか定着しづらかったそうで、そこでこちらのお店では、かっこいいバーカウンターや派手な店内の装飾、ホールスタッフの衣装や掛け声など、あらゆる仕掛けでお客様を楽しませるエンターテインメント空間を作り上げている。肝心のお肉はアメリカ産神戸牛を使用していて、その味の良さは折り紙付きだ。
 なにせこのTANGIERを切り盛りしている社長Rohさんは、このお店を立ち上げるまでに90店近いお
店を手がけてきた飲食のスペシャリスト。ただものではない。
 そして今回はオーナーである安田さんのご意向により、そのエンターテインメントの一つとして僕の作品を店内装飾に加えて下さる事になったのだ。

 今回ご購入頂いた作品は、このコラムでも何度か掲載している代表作「Gothic lunatic」と「Two Anacondas trapped in the frame」の二点。
 どちらもかなりの大作なので、まずは無事に輸送できているか、壊れてはいないか、その事だけが心配だった。幸い輸送は、昨年一昨年とN.Y.での個展の際にもお世話になった、ニューウェーブ ジャパンの五十嵐さんとAMSCO International,LLCの小阪さんが今回も担当して下さり、心強いかぎり。

 さぁ時差ボケなんて言っているまもなく、まずは開梱作業。特に「Gothic lunatic」は複雑な形状に加え、細かいパーツやチェーンなどごちゃごちゃしているので、慎重に慎重を重ね梱包材を取り除く。N.Y.でのフェアのときもそうだったけれど、自分の作品が確かに海を渡ってそこにある事がどこか不思議。
 現場への取り付け工事をして下さるのは、Isao Kimさん。大工工事も電気工事もこなす頼もしい方。
海外での工事というのは、どうにも大雑把なイメージがあって心配していたのだけれど、彼は神経質な僕が心配しそうな事を常に先回りして考えてくれていて、とにかく丁寧かつ慎重な作業をしてくれる。
「大丈夫、ちゃんとやっておかないと今夜僕も眠れません」が口癖。こういう良い職人さんに出会うと海外のイメージも変わるというものだ。

 初日の夜は、こちらTANGIERさんで早速焼肉をご馳走になる。ちょうど同時期にやはり仕事のためL.A.に来ていた友人の作家も誘って下さり、皆さんで楽しい食事。自慢の神戸牛はもちろんの事、キムチやチゲ鍋がとにかく美味しい。

 お店からホテルまでは車で40分ほど。ホテルの部屋に着くなり気を失うようにベッドに倒れ込み……真夜中に這い起きて、お風呂に入って……。

 ひとまず初日、終了。

8月26日

 朝、ホテルのレストランで皆さんと集合。
今回の宿泊は「Beverly Wilshire Beverly Hills A Four Seasons Hotel」。そう、映画『プリティー・ウーマン』の舞台になったホテルだ。
 ここに宿泊するのも今回の旅の楽しみの一つ。出発前にはDVDできちんと予習してきたほど。

 で、朝食をとったレストランには有名な“あの”ピアノも。

 ホテルの目の前は、これまた有名なロデオドライブ。これでもかというほどに、ハイブランドが軒を連ねる。本場を目の前に「青山っぽい」と思ってしまう日本人な自分。  
 
 しかしながら、街路樹ならぬ街路フラワーにはとても感動した。造花かと思えばホンモノの生花。メンテナンスはどうしているのだろう?
 簡単ではないその手間を、さりげなくこなしてしまうその心意気や美意識が、きっとこの街の“上等さ”をスマートに演出している。




 某有名セレクトショップなどに寄り道しつつ、午後から再びTANGIERへ。
 観光気分を切り替えてお仕事の続き。今日はもう一点の作品、「Two Anacondas trapped in the frame」の取り付け。

 オーナーや社長とも相談の上、最終的に僕の希望する場所に設置する事ができた、ありがたい。Isaoさんの丁寧な作業にすっかり安心しているので、あまり心配もストレスもなく工事を見守る。
 けっこう重量のある作品。作業には数人の手助けが必要なのだけれど、お店のホールスタッフたちが快く手を貸してくださる。皆さん、気持ちの良い方ばかり。
 日本人の若い男の子も居たので話を聞くと、アメリカでの野心を照れ臭そうに語ってくれた。たくましいなぁ。日本の草食系男子ども、見習いたまえ。他にも、モデルをやっているという可愛い女の子や、音楽をやっているという素敵な女性スタッフ、絵を描いているという男性スタッフ……国籍問わず、多くのスタッフがここTANGIERで夢や野心を抱いて働いている。ここに居るだけでパワーをもらえるし、自分まで嬉しい気持ちにさせてくれる。

 二日がかりで無事に作品の取り付け工事を終え、この日の夜は皆さんでステーキレストランへ。毎度アメリカに来るたびに必ずステーキは食べていて、今回も恐縮ながらリクエストしていた。こちらのステーキは分厚いヒレ肉が主流。表面は少し焦げるほど焼いていて、「ニガうま」な感じ。日本人の口には好き嫌いが分かれるようだけれど、僕は好きだなぁ。
 ちなみにこっちのステーキレストランでサーロインの事は「ニューヨーク」と言うらしい。こちらも旨味があってとても美味しい。僕が頂いたのはたしか18オンスのヒレステーキ。1オンスは約28グラムだから……えっ!?……。ダイエットはとりあえず食べ終わってから考えよう。
 普段まったくお酒を飲まないものだから、この日は乾杯程度に頂いたワインが効いてしまい、疲れと相まって食事のあとはフラフラ。皆さんに失礼して一足先にホテルに戻り、バタンキュー……。

 で昨夜と同じく、真夜中に這い起きてお風呂へズルズル。せっかくの高級ホテルでなにやってるんだか、まったく……。

 頭痛のまま二日目終了。
(2010.09.25 おおもり・あきお/彫刻家)
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