高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。
vol.25「2010年上半期 お仕事日記」  

 とにかく右を見ても左を見ても、誰も彼もが「ブログ」なのだ。
 そういう自分も「大森のブログ見てるよ」とか「最近ブログぜんぜん更新してないじゃん」とか、あれこれ言われるわけだけれど、いやいや……これは“連載コラム”であって“ブログ”じゃないんだよ。立派な? 執筆なの。なにより“お仕事”なんだよ。仕事じゃなきゃぁ、こんな面倒臭いこと誰が……っと……。“お仕事”に暴言はいけない、いけない。

 とあるデザイナー曰く「誰しもが持っている “表現欲” を満たすのにブログは丁度良い媒体だったから、これだけ爆発的に普及した」のだそうだ。なるほど、それはなんとなく理解できる。美術や音楽や演劇、そういったものに携わることを「表現の仕事」なぁーんて気取ってよく言うけれど、でもねぇ、どんな仕事であれキチンと意志を持って取り組めば、それは立派な自己表現だと思うのだけれど。
 それにしても、そのむかし小学生の頃 “絵日記” はとにかく悩みのタネで、間違っても「絵日記が大好きだ」なんて奴を見たことがなかった。なのに、なんで大人になってまで、皆こぞって絵日記をしたがるのかねぇ。

 ま、そうは言っても「ブログ」なスタイルは世の流行り。

今回のコラムは2010年の上半期を “ブログ風” に振り返ってみたいと思います。
 
1/25「S邸門扉 制作打合せ  

 中学の頃からの親友が、昨年結婚して新居を新築するとのこと。ついては「オリジナルの門扉を作って欲しい」との依頼が。これは頑張らなきゃ! ってことで、昨年末から幾つかのプランを提案、打ち合わせしつつ、年明けにある程度決定したデザイン画を持って、現地で打ち合わせ。
 こういった仕事、お施主さんの予算やモチーフのご希望に沿うことがなによりなので、いつもの展覧会仕事とは少々勝手が違う。けれどそこが面白味でもあり、喜びでもあるのだ。

 
2/6 AKIO OHMORI × RUDE GALLERY コラボレートボーリングシャツ打合せ  

 以前からお付き合いのあるアパレルブランドRUDE GALLERYさん(Vol.2参照)。
 なんと、今年のアートフェア東京での個展「CIRCUS IN THE DREAM 〜第2幕〜」および高島屋での個展「―disclosure―」のために、オリジナルのボーリングシャツを制作してくれることに。
 RUDE GALLERYのオフィスでの雑談中「サーカス・モチーフのイラストって、ボーリングシャツに合いそうじゃない?」なんて一言がきっかけ。社長はじめデザイナーもスタッフも皆忙しい中、快く協力してくれた。ありがとう!

http://www.rude-gallery.com/

 
3/2ボートレース江戸川アートミュージアム(EKAM)納品  

 こちらも以前からお世話になっているボートレース江戸川さん(旧 江戸川競艇 Vol.4 参照 )。
 2年前に完成した大森暁生ブース(Vol.16参照)に久しぶりに新しい作品が加わった。

 こちらのミュージアムのアート ツアーも好評のようで、幅広くたくさんの方に作品を観て頂ける場所として、本当に感謝しています。
  いつもありがとうございます。

http://www.edogawa-art.jp/

 
気鋭のアーティスト7+7の視点  



 画家7名と立体作家7名による展覧会。

 展示確認を言い訳に、北海道に美味しいものを食べに行きたかったのだけれど……スケジュールが取れず断念。

 足を運べない展覧会はなんとも申し訳ない限り。


http://www.daimaru.co.jp/sapporo/

 
「大森暁生展」新生堂  


 この春開催のアートフェア東京での個展のプレビューも兼ねた展覧会。
 画廊店舗での個展は昨年の6月以来久しぶり。

 新生堂の地下会場はとても静か。そこでゆっくりとお客様を待ち、ゆったり一人一人の方とお話しをしたり写真を撮ったり、そんな時間がとても心地よい。
 個展は本来こうあるべきだなぁ……。


http://www.shinseido.com/

 
3/31 TORNADO MART × AKIO OHMORI 2010 TRIANGLE COLLABORATION 原画納品  

 こちらもこのコラムでおなじみのアパレル ブランド、TORNADO MARTさん(Vol.11Vol.16参照)。
 2年前の京都店1周年記念のコラボレーション以来、久しぶりにまた一緒に商品を創らせて頂くことに。お題は「スカル」「花」「蝶」。
 まかせて下さい!
 というわけで鉛筆画を仕上げて、データ化するためひとまず納品。その後、パーティーでの展示用に着彩します。

http://www.spic-int.jp/

 
4/1~4/4 アートフェア東京2010  

 アートフェア東京への出展も今回で5回目(旧「NiCAF '99」を含む)。個展は4回目となる。
 今回は「CIRCUS IN THE DREAM 〜第2幕〜」と題して、昨年秋開催のTCAFでの個展の第2弾。「毎度お金のかかる我が儘なブースで有名な大森暁生」ってことでも定着してきたようで……。
 出展してくれた新生堂さんには感謝感謝です。

 今年は過去最高の入場者数だったらしく、とにかく人 人 人。入場制限で入れなかったお客様も大勢いたとのこと、申し訳ない限り。
 夢が持てなくなったと言われる昨今、けれどアートの裾野がこんなにも広がるとは、このフェアに出し始めた数年前には想像もつかなかった。

 で、上記「RUDE GALLERY×AKIO OHMORI コラボレート ボーリングシャツ」も見事に完成しました。かっこいーねぇ♪

http://www.artfairtokyo.com/

 
大森暁生展−disclosureー  
 
 

 2007年の春に新宿高島屋美術画廊のオープニング個展という大役を務めさせて頂き、以来3年ぶりとなる個展。その間も「Artistic Christmas」や「高島屋 Art AQUARIUM」などの企画展でもお世話になっているので、なんだかホームグラウンドのような安心感。理想の展示を実現させるのに、この安心感は本当に心強いことで、僕の作品を理解してくれて、そして気の知れたスタッフ皆さんの協力のもと、今回もとても良い展示に仕上がったと思う。
 前回のコラム(Vol.24参照)でも触れたが、今回の個展では図面の展示や、プロジェクターの導入など、百貨店美術画廊という “ハコ” においての新しい見せ方も幾つか試みたつもり。百貨店での発表を嫌う作家もいるけれど、要はやりよう。見せ方はいくらでもある。「百貨店に出さない=ブランディング」だと思っているのは極めて浅はかな考え。百貨店の持つスケールメリットを上手に自分のブランディングに活かしていくくらい図々しくなきゃ、作家なんて続かない。
 しかもこの個展会期はちょうどゴールデンウィークの真っ只中。そしてユニクロ新宿高島屋店のオープンという好条件がそろい、とにかくお客様が多い。実際、ユニクロの紙袋を下げたお客様も画廊へゾロゾロ。きっかけはなんでもいいの。まずは作品が一人でも多くの人の目に触れ、そこからファンになって下さる方が一人また一人と増えていってくれる、このことが大事。昨今の美術界はオークションやらなんやらで、張りぼての高値を作り出すことは容易かもしれないけれど、そういう嘘臭い商売はしたくない。なにより毎日画廊に詰めていることが楽しい。これは他に代え難い充実感。会場挨拶文に「彫刻家という生業を通して人間関係が豊かになること……」なんて知ったようなことを書いたけれど、実際今回の個展でも数え切れない出会いを頂いた。
 この先、この仕事を続けていくにあたり、これほどの財産はない。

http://www.takashimaya.co.jp/shinjuku/index.html

 
Permanent Genuine × AKIO OHMORI コラボステッキ納品  

 昨年発表した、アパレルブランド「Permanent Genuine」とのコラボレーションによるステッキ。昨年末の展示会での受注を経て、いよいよデリバリー開始、お待たせしました。お陰様で13本限定のほとんどに予約がついた。真鍮製のヘッドと漆で仕上げた柄は、これから使う方それぞれの表情となって齢を重ねていくことだろう。
 ところで今回のコラボレーションのこと、「CYCLE HEADZ」というバイク雑誌が取材してくれた。……対して、美術誌はこういうこと興味ないんだよねぇ。

http://www.permanent-genuine.com/

 
後藤浩輝さん麻利絵さん ウエディングパーティー  

 2005年のアートフェア東京の際、僕の作品を購入して下さったのを機に友人になった騎手の後藤浩輝さん。彼がこのたび、タレントの湯原麻利絵さんと結婚することになり、その「ウエディングパーティー用のウェルカムボードを作って欲しい」との依頼が。お二人の人生の門出を、僕の作品でささやかながら彩らせて頂けるとは光栄なお話。
 大森作品のコレクターだけあって、ゴシックテイストが大好きな後藤さん。ウエディングだからって既製のイメージに一切とらわれる事なく制作して欲しいってことで、だいぶダークなウェルカムボードに仕上がりました。そしてボードを飾るフラワーアレンジメントは、これまたゴシックテイスト大好きなお花屋さんの友人に依頼。

 だいぶ思い切っちゃったけれど、パーティー当日(5月10日でゴトウの日ね)お二人に喜んで頂けて、ホッとひと安心。肩の荷がおりたなぁ。
 さすが花形のお二人、きれいな花嫁さんはもちろん、パーティーは華やかそのもの。多くの騎手仲間やタレントさんに混じって、なぜか「せんとくん」まで登場。ここで会うとは……。

 ウェルカムボードを無事納めてお役目終了の自分は、ほしのあき さんを遠目で眺めながら、素敵な夜はふけていきました。
 
「THE FACES」RUDE GALLERY  

 上記ボーリングシャツのコラボレーション他、なにかと連んで悪巧みしているRUDE GALLERYさん。今回は、同ブランドの眼鏡ラインの展示会を大森作品でインスタレーションしようという企画。

 素材となる作品は、それぞれの人生をシワの一つ一つに刻み込んだ年老いた男達のマスク。自身の中でも異色の作品だ。
 マスクと合わせてアンティークの小物達も程よく配置し、そこにそっと眼鏡が置かれることで静かな物語が始まる。
 こんな展示、夢だったなぁ……。

 RUDE STAFFそしてPRESIDENT ありがとう。

http://www.rude-gallery.com/
 
5/20 点滴  


 バテました……。

 「気を緩めちゃいけない」と自分に言い聞かせていても、大きな〆切を越えた頃、やっぱり……年に何度かこうなります。

 そんなときは都内某病院の院長先生のところへ駆け込み「いつものやつお願いします」。
 そう、いわゆるニンニク注射ってやつ。
 酒もタバコもやらない自分。もちろん、その他の反社会的葉っぱ類や錠剤的たぐいもやらないよ。でも点滴は大好き。バテるのはしんどいけれど、バテたときのお楽しみ。「やった、点滴打てる♪」そんな気分。徐々に深〜い眠りに落ちていく感じがたまらない。至福の数時間。実際、これをするのが一番回復も早いので仕事上も助かるのだ。

 “ニンニク注射”は通称で、ほんとにニンニク エキスが入っているわけではなく、ビタミンなんちゃらをブドウ糖にトッピングしているものらしい。

 でも打っていると、じきにお腹の中からニンニクの匂いがしてくるから不思議。
 というわけで今日もお楽しみの時間。

 「イェイ♪」

 
5/22 TORNADO MART SPECIAL PARTY  
 

 上記、コラボレーションのパーティー当日。TORNADO MARTさんはアパレルでも特に華やかです。普段、工房での一人きりの制作と、こういった華やかな晴れ舞台とのギャップもまた、この仕事の醍醐味かもしれない。なんだかくすぐったい、いつもそんな気分。
 肝心のコラボレーションのTシャツやワンピースはどれも素晴らしい出来映え。スワロフスキーもふんだんに散りばめて頂き、キラキラ☆さすがです。
 自分の作品がこうして新しいプロダクトとなって生まれ変わることは、この仕事を始めた当初、本当に夢見ていたこと。それが十数年経った今、自身の活動において大きな柱の一つになりつつある。
 有名なコンテンポラリー系ギャラリーに扱われることが、さも作家のステイタスや付加価値だと思わされがちな美術界の構造があるけれど、本来ブランディングとは作家自身が長い時間をかけて積み上げていく「本人唯一」のもののはず。オリジナルじゃなければブランディングではない。

http://www.spic-int.jp/

 
5/26 大森暁生展 名古屋展  

 先月新宿高島屋で開催した個展の巡回展。自身、個展における初めての巡回展でもある。

 前日に名古屋入りし、夕方から設営。彫刻の展示を“どんでん”で行うのは少々時間的にキツい。そうは言ってもなんとか仕上げて当日を迎える。
 会期中は、3回名古屋へ行き来した。ここしばらく旅行に飢えていたので、仕事と言っても丁度良い気分転換。

 途中、大阪へも足を延ばしてすっかりバケーションです。たこ焼きとホルモンが美味い。
 けれど、その大阪でも名古屋でも幾つかの画廊や百貨店へご挨拶や会場下見に。案外真面目なのよね〜、僕。

 そして名古屋展でもたくさんの出会いを頂きました。これがあるからこの仕事はやめられない。

http://www.jr-takashimaya.co.jp/

 
5/27 21世紀展  



 毎年恒例の新作展です。
 4月23日から東京美術倶楽部での展示を皮切りに全国の美術倶楽部を巡回し、再び東京へ。ようやく時間が取れて、展示確認に。

 会場風景を撮影したかったものの大人の事情がややこしそうなので、入口の写真にてご勘弁を。



http://www.toobi.co.jp/
http://www.toobi.co.jp/21th/list.html

 
6/4 「日テレ ミリオンダイス 撮影取材」  

 こんな稼業をしているといろんな依頼が来るのだけれど、久しぶりにTVのお仕事。しかも今回はバラエティ番組「ミリオンダイス」。……といってももちろん主役はタレントさん達なので、自分は彫刻の技術協力といったところ。それでも2回もカメラが取材に来たりして、それなりに気分も盛り上がる。
 
 現代版「銅鏡」をメイクアップ アーティストの IKKO さんがデザインし、鏡部分はお笑い芸人のチュートリアルが制作、そして鏡をはめ込む木地部分の彫刻を大森暁生が担当……というのが大まかな企画内容。
 以前、アパレル ブランドの UNDER COVER とコラボレーションさせて頂いた時もそうだったのだが、こういった依頼仕事、頂くデザイン画は平面なので、その線一本一本に対してどのように凹凸をつけて彫りだしていくか、そこに彫り手である自分の技術やセンスが問われ、重要な役割となる。
 特に今回は、彫る作業自体はたいした事ではなく、それよりも IKKO さんのデザイン画を最大限効果的に具現化させる、その方向性の決定が一番の悩みどころ。
 それさえ決まれば、あとはサクッと彫って、お得意の漆による緑青古色仕上げで、はいドン決まり。うん、上出来上出来♪

 なんでも当初、よその作家さん数人に依頼をしたところ、「制作期間1週間で、味があり高級感のある仕上がりに」という局側の要望に「そんな無茶な話、引き受ける奴なんて誰もいないよ」と門前払いを受けて、最後にウチに流れてきたとのこと。

 ん〜、それは難題だなぁ、と少々頭を抱え……トータル4日ほどで出来上がりました。

ん?なにか?



http://www.ntv.co.jp/dice/

 
6/5 担当H氏結婚式  




 このコラム連載当初から、僕の担当をしてくれている芸術新聞社の気鋭H氏。先日、彼がめでたく結婚をされ、そのパーティーへ。

 素敵な奥様の横で、普段とは別人のように緊張した面持ちの新郎。

 いいもの拝見しました。末永くお幸せに!

 
6/24 S邸門扉 制作途中チェック  
 冒頭にも書いたS邸門扉が、いよいよ組み立ても大詰めだということで、制作を依頼している美術鋳造業者さん黒谷美術(株)まで途中チェックに。
 工場は富山県の立山にあり、久々のロングドライブ。梅雨の最中にもかかわらず天気にも恵まれ気持ちいい。

 仕上げまでを全て自分で行う木彫と違い、鋳物仕事は業者さんとの信頼関係や多くの職人さん達の多大なる協力により初めてカタチとなる。なので、自分のイメージが具体的な姿となって現れたときには、作家である自分自身も新鮮な驚きと感動を覚える。
 幾つかのチェック箇所や変更箇所はあったものの、なかなか会心の出来。このあと塗装作業に入り、いよいよ完成を迎える。なんだかんだと半年がかりの大仕事になった。施主も気に入ってくれるといいのだが。

 無事に外構工事が終わった暁には、また詳細を更新したいと思う。
 富山からの帰り道、途中群馬に立ち寄り、友人の洋画家・水野暁くんのアトリエへ。同じく友人の彫刻家・下山直紀くんも合流して男3人のバーベキュー。

 焼肉とニジマスとスイカで、ちょっと早めの夏が来た!

http://www.toyama-smenet.or.jp/~kurotani/saito/WELCOME.html



 というわけで、気付けば夏ももう目の前。一気にこの半年を振り返ってみました。

 昨年刊行したこのコラムの書籍『PLEASE DO DISTURB』の帯には「彫刻家なんかで喰っていけんのかよ?」の、名(迷?)キャッチコピーが載ったけれど、そのコピーに恥じない、ありとあらゆる手段を使って楽しく図太く生きていく彫刻家の日常、皆さまいかがでしたでしょうか。

 それにしても、やっぱり毎日のブログは自分には到底無理。こうして半期をまとめて書いているあたり、小学生の頃の夏休みの最後、突貫工事の絵日記を思い出す。

 ……あー、なんにも成長してないなぁ、俺。

(2010.06.28  おおもり・あきお/彫刻家)