高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
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vol.22「煙突掃除」  

 あっという間の年の瀬です。
 暖冬だとか温暖化だとか言われていても、さすがに東京も本格的な冬の寒さ。寒いと身体も縮こまり、制作も億劫になるもの。けれど彫刻家というものは美術大学にいた頃から、どこか体育会系のようなイメージが付きまとい、雨風雪の中、ドカジャンを着て鼻水垂らしながら鑿を振るう……そんな美学がどうも蔓延している。たしかにこの時期、自分も屋外で材木を品定めしたり、それをトラックから工房に荷下ろししたり、そして大木を前にチェーンソーや鑿を振るう姿は、さぞや男らしいガテンなイメージだろう。けれど本心は、出来るだけぬくぬくと暖かい環境で、ゆったり制作したいものなのだ。
 そこで、コラムvol.20「木のはなし」でも少し触れたが、4年前に工房を新しく構えた際、薪ストーブなるものを導入してみた。“薪ストーブ”って響き、いかにも軽井沢の別荘族、そんな優雅なイメージが広がるけれど、実のところウチでは暖房設備と同時に“焼却炉”という重要な役割がある。木彫を一つ彫り上げると、そこから出る木屑は出来上がった作品の何倍もの量に膨れあがる。大作ならなおのこと。チェーンソーで荒取りした端材などは、ゴロゴロしているわ尖っているわ重たいわで、いわゆる指定ゴミ袋なんかに入れたらすぐに破れてしまうし、いくら詰めてもキリがない。しかもご存じの通り事業ゴミは有料なわけで、これが案外馬鹿にならないのだ。ならば木だもの、燃やしてしまえばいいのだけれど、東京都では平成12年の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の改正により、個人での焼却炉の使用が禁止されてしまった。住宅の密集する都心でモクモクと黒い煙をあげるのはやはり難しいだろうとうなずける。
 しかししかし、建築雑誌を開くとここ数年、住宅に薪ストーブを入れるのがカッコいいとあれこれ載っている。「えっ、薪ストーブならいいわけ?」そんなことがきっかけで、あれこれ調べた末、都内でも使用可能な機器の導入へと至ったのだ。
 ウチには毎日のように様々なお客様がみえるが、冬時期、この薪ストーブはすこぶるウケが良い。そして本人、ウチの工房まで足を運んで下さった方への、ちょっとした“おもてなし”の気分なのだ。
 つまり木っ端のゴミは片付くし、暖かいし、お客様は喜んでくれるし、良いことずくめ、“快適薪ストーブライフ”というわけ。

 しかしながら……この薪ストーブライフを楽しむためにはひとつ大変な作業が待っている。
 そう「煙突掃除」だ。
 年に一回の大仕事。屋根に上って前の冬にこびり付いたススやタールを綺麗に落とさなければならない。これを怠ると煙突内火災というのを引き起こしてしまうので、大事な大事な作業なのだ。
この東京ではいわゆる“冬支度”なんて言葉も、今までそれほど馴染みがなかったわけで、この煙突掃除、「これから冬を迎えるなぁ」なんて気分がグッと盛り上がり、なかなかオツなもの。

 というわけで、今回のコラムはウチの工房の煙突掃除の模様をドキュメントでおおくりしたいと思います。

 

 1)
 まずは工房の屋根に上がり、煙突の傘を外します。

 2)
 これが煙突掃除のプロ用機具!
 煙突掃除は専門業者に頼むこともできるけれど、やっぱり自分でやりたいもの。
 こういった専用の道具を揃えるのも楽しい。

 3)
 ワイヤーが束になっているブラシ部分にシャフトを繋ぎ合わせながら煙突上部から差し込んでいきます。
 そう、コップ洗い用ブラシのお化けみたいなもの。
 ブラシの先が底(薪ストーブ本体)まで届いたら、またシャフトを解体しながら抜き取ります。

 4)
 ススやタールで真っ黒になった傘部分を回収。

 5)
 駐車場に持ってきてブラシでこびり付いたススや
 タールをこそぎ落とします。
 マスクをしていても鼻の中まで真っ黒……。

 6)
 いやぁ、取れた取れた。

 

 7)
 鳥避けの金網を元に戻して、傘部分の掃除完了。

 8)
 お次はいよいよ薪ストーブ本体の掃除です。
 ススの汚れは床に落ちるとほんとに取れないのでキチンとビニールシートを敷いておく。

 9)
 まずはストーブ内に溜まっていた灰をきれいに掃除。

 10)
 薪ストーブ内、上蓋を外すと、煙突からこそぎ落としたススやタールがたっぷり山盛り。
 なんとも気持ちが良い。

 11)
 薪ストーブ内壁を全部バラして、
 掃除機で隅々まで綺麗に掃除。
 火事だけは避けたいですから。

12)    
クリーナーで    
中も外も拭き掃除。 
ここまできたら   
もう徹底的に。   

 13)
 中に少し灰を敷いて掃除完了。
 いやぁ、この瞬間は毎年気持ちの良いもの。

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14)
ついでに“薪”の話も少々。


 ウチの場合、薪割りではなく“薪切り”なのです。
 バンドソーで「チュイーン」と薪を切る姿に、
 友人いわく「イメージ壊れた」そう。


 工房の裏には薪のストック。
 自身の工房から出る木っ端以外にも、馴染みの木
 材業者「山口製材」さん(vol.20参照)からも毎
 年廃材を頂いています。
 薪がふんだんにあると何故か心が豊かになります。

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 15)
 上手に薪を組んでこの冬最初の火入れ式。この薪組み、結構コツがいるのです。
 当初はなかなか上手く火が点かなくて苦労したけれど、いまではお手のもの。
 やっぱり最後には「火が焚けるオトコ」が生き残るのです。

 16)
 で、ようやく今年も無事薪ストーブに火が入りました。

 

いかがでしたか?
スイッチひとつでONというわけにはいかない薪ストーブ、彫刻家にはなんだか相性も良いようで。

さぁ、煙突掃除も終わったことだし、あとはサンタさんを待つだけ。

Merry Christmas !

 
(2009.12.15  おおもり・あきお/彫刻家)