高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
文字のいずまい
vol.13

現代版「茶掛け」としてのインテリア書
臼田捷治(デザインジャーナリスト)
 近、全国主要紙が相次いで取り上げるなど、いわゆる「インテリア書」への注目度が高まっている。個人が自宅などの身近な室内空間に掛けて愉しむ書をいう。これまでのインテリア書というと、図式的にいえばカリグラフィ系や商業書道家系からのアプローチが多かったように見受けるが、近年は本道を歩む一流書家、新進書家の参加が目だつ。インテリア書が新しい段階を迎えていることを示しているといってよい。
 家の協力を得た新展開の口火を切り、共感の輪を大きく広げているのが植野文隆氏がオーナーをつとめる「Carre MOJI〈キャレモジ〉」(東京・南青山)。四年ほど前に始めたショップ兼ギャラリーだ。初歩から指導する教室も開いていて好評だ。
 年末にはアシェット婦人画報社から、実際にキャレモジ作品が置かれた空間を収録した写真集『Carre MOJI インテリアにしたくなる書』(植野氏と書家・清水恵さんとの共著)を出版。また、展示会の開催に意欲的に取り組んできたが、新春一月の東京世田谷・玉川高島屋での発表も多くの来場者が訪れ盛況だった。

最初にキャレモジに協力した浜田尚川氏

浜田氏のキャレモジ作品「宙」
 野氏(一九四八年高知市生まれ)は慶應義塾大学法学部で学び、二十代半ばまで書家としても研鑽を積んだ後、実業界に進んだ。マーケティング・コンサルタントとして、欧米にも十数年滞在しながら活躍した国際派。インテリア書をプロデュースすることになったのは、外国人の知人が日本で生活することになって、部屋に飾る書を探したのであるが、現代の感覚と隔たった掛け軸や墨蹟ばかりで落胆したという率直な声を聞いたのがきっかけだったという。日本を代表する伝統文化である書を、洋風化の進む今の住空間にマッチし、現代人の琴線に触れることができるかたちへと再生しようとする熱い想いが、植野氏を新しい挑戦へと駆り立てることに。豊かな海外体験でつちかったグローバルな眼差しと、少年期から書に打ち込んできた素養の深さもその挑戦の支えとなった。
 「住んでいる空間に掛けてこそ書本来の価値がある。絵と同じ感覚で書を飾っていただきたい。絵と書は太古の昔は同じところでスタートしている。書だから、絵だからということはない」と植野氏はいう。そして、キャレモジ独自の姿勢として、「書道としてのトップクラスの完成度と、見る方の心の中に美しい情景が広がり、心地よく癒されてなごむこと」を挙げる。
 ャレモジ作品には落款がなく、書家の英字サインが施されているといったことも印象的であるが、植野氏が創案した、上質なインテリアアートとしての額装がさらに評判を呼んでいる。部分的に矩形の色面を配して書作品と緊密に関係づけるなど、モンドリアンらのモダニズム絵画に通じる斬新さが際だつ。「モダン、シンプル、おしゃれの三つがキーワード。それに合った額装を考える」と植野氏は意図を語る。
 の額装ビジネスも展開しており、作品に寄り添い、画一的ではない一点一点異なる額装を施す新機軸は、額装だけの注文が一般書家からもたくさん寄せられるようになった。
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