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若狭の整体でわかさをとりもどせ?
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  ある日、福井県の若狭を訪ねることにした。若狭といってもNHKの朝ドラ「ちりとてちん」の舞台を訪ねてというのではない。
 今年の2月のある日、妻が友人を訪ねた。その人とは数ヶ月会ってなかったのだが、会うと見ちがえるほど美しくなっている。イキイキとした肌、つやっぽい顔、そして目の色まで違うのだ。よく聞くと若狭の評判のいい整体の先生がいるので3回ほど通ったという。奈良から電車とバスを乗りついで一日がかりで行くという。その話を聞いてきた妻は、私に「いっしょに行ってほしい」と誘ってきた。私はこの種の話が大好きなのだ。「手技で病気を治す」「日本古来の方法で何かを変える」……とか。そして今までずいぶん、日本中を訪ね歩いたものだ。
image それは父が60歳の時である。ある日突然に奇病にかかり三日間で植物人間になってしまった。病気一つしたことのない頑健な体だったので、家族も親族も大きなショックだった。それから入院、リハビリと6年間をかけて、手足は動くようになったが自力で歩くことはできない。私はなんとか健康にもどれないかと治療方法を探し、いろんな所を連れまわったが良くならなかった。また有名な月刊誌の中で、フィリピンに心霊手術の名人がいて病気を治すという記事を見つけ、遠くフィリピンまで出かけていった。それほど健康に……いや手技に関心が深いのだ。
 個展前の忙しい日であったが面白そうなので若狭に出かけることにした。我が家から高速を乗り継いで車で3時間半。琵琶湖を見ながら、ひたすら山の中を走りつづける。峠を越え渓流を眺め鯖街道を一路、若狭をめざして行く。


image その町は小さな建物が立ち並び、人も少なそうな町だが、町の外れには場違いな新しい大きな駅舎が建っている。こんな駅に人がくるのだろうか……と思うほどだ。そのそばに目当ての古い普通の民家があるが、わかりにくい看板、表札もない。本当にこんな所だろうか。聞いた地図をたよりにおそるおそる玄関をあける。

 中に入ると石油のポリタンクが3個あり、石油くさいが室内は暖かい。廊下をギシギシ歩き、古びたタタミの部屋に入る。2部屋あり、1部屋はテレビがおいてある待合い4.5帖、隣はつづきで6帖ほど。そこで整体をするらしい。出てきた先生は60歳代、骨と皮でやせた坊主頭の人。体が悪いらしく立ちふるまいは少しぎこちなく、やっと動くといった感じだ。妻と私は「他人の整体より自分の方を先にしたら?」と思ったり、「たとえいい先生でも生きているうちにどれだけ通えるだろうか?」と心配になるほどだった。
 いざ治療が始まると、他での整体のようにマッサージをしたり、指で痛いところを押したり、というのではない。初めて見る方法だった。のどに片方の手の指をあてて、もう一方の手で独特の回し方による腕の折り曲げをくりかえす。足も同じ方法だ。単純といえばこれほど単純なことはない。先生は思ったより指先の力が強く、私は2回ほど悲鳴を上げた。先生が云うには「本来人間は産まれてくる時に身体が変形して出てくるもので、それが成長と共に病気をひきおこす。だから身体の形や骨を正常な位置に戻してやらないといけない。そうすることによってリンパの流れがスムーズになり病気が治り肌が生きかえっていくものだ」というのだ。


 そして、「顔も治すとおだやかな見ちがえるほどの良い形になってくる」とつけ加えた。1回で1人1時間。終わって「スッキリした」「良かった」という実感はまるでない。どうなったのだろう。反応がないのもつらいものだ。
 それから5日後――私は2ヶ月に一度大きな病院で定期検診を受けているのだが――行きつけの病院で、血液検査の結果をみながらいつもの医師は、「今回は数値が良くなっていますねぇ。何かしたのですか?」と意外な答えが返ってきた。前回では、長年変化のない高い数値のままだったのだ。

 1回だけの整体体験で良い悪いとは言えないが、少なくても一ヶ月に一度は若狭に出かけようと思った。若狭には魚もあり、途中の山の中には日曜朝市もあって、新鮮な野菜やパン、鯖寿しなども買うことができて楽しい。
 まだこの整体がどんなものかわからないが、座って印を彫り絵を描く私のくらしには、少なくとも必要なのかもしれない。もしも町のどこかで、ピカピカの私を見かけたら、整体が効いたと思い、どこかしょぼくれた私だったら、効果がなかったと思っていただきたい。





    
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